第51話 魅力の【本質】
今回は、毎年この時期になると思い出す、あるお店の話をしたいと思います。
そのお店はふぐ料理専門店。冬は平日でもなかなか予約が取れない人気店なんですが、ふぐのシーズ以外は集客に苦労されていました。
知恵を絞って色々な販促を仕掛けますが、冬場以外はとにかく反応が悪い。結構歴史のあるお店ですから、あまり奇をてらったこともできない。そんな悩みを抱えていた時に出会ったお店です。
一般的に、ふぐの旬は「秋の彼岸から春の彼岸まで」と言われますが、実際、ふぐ目当てのお客さんがお店にたくさん来てくれるのは、12月~2月のわずか3か月間。残り9か月は実質“ふぐ”という切り札なしで戦わなければならなかったわけです。
以前このコラムでも「○○なら一番!と思ってもらいましょう、一番を狙いましょう!」とお伝えしました。また、料理や業種での一番を狙うのではなく、“特定の利用動機”で一番を目指してください、ともお伝えしましたね。
今時、よほど珍しいジャンルでもない限り、料理や業種での地域一番店はすでに決まっていることがほとんど。(このお店の地域でも、ふぐ料理の一番の席はすでに埋まっていました)しかし利用動機なら色々考えられるし、一番になれるチャンスは大いにあります。
このお店も「夏場をどうするか」ではなく、そもそも、お店のどこが一番の魅力なのか?という点をもう一度考えていただきました。
過去1年間のメニュー分析、常連さんの声、スタッフの声など、様々な情報収集と分析を実施。その結果、お客さんが魅力に感じているのは“ふぐ料理”だけではないことがわかってきました。
このお店は、ふぐの他にも様々な海産物が豊富な、とある島出身の方が経営するお店です。地元で水揚げされた新鮮な海の幸を毎日提供しています。
お客さんも最初はふぐ目当てですが、島で水揚げされた旬の魚介類が楽しめるお店という事で、常連になった方がほとんど。ふぐ専門店というより「〇〇島の海の幸が味わえるお店」として支持されている要素が強かったというわけです。
さらに、店主もスタッフも島出身です。つまりこのお店の利用動機は「都会にいながら〇〇島が満喫できるor島に行った気分になれる」」という点。これこそが、このお店の魅力の【本質】でした。そして、地域にそんなお店はありません。
そうであれば、考える幅が広がってきます。まずは冬以外(特に夏場)のふぐに代わる看板メニュー開発が急務でした。
検討の結果、夏が旬で、しかも年中楽しめる島の名物“たこ”に注目。たこをふぐのように薄造りにして、しゃぶしゃぶにして食べていただく「たこしゃぶ」や「たこの炭火焼」といったメニューを開発しました。
私も初めていただいた時、心躍りました。美味しいだけじゃなく楽しい!
「ふぐ料理専門店」というスタンスでは発想し得なかったナイスアイデアでした。
また、島の浜でよく見かける風景を再現した店内装飾を施したり、島以外ではほとんど流通していない、地元のお土産品を販売したりと「〇〇島が満喫できるお店」をより感じていただける仕掛けも用意しました。
「たこ」メニューのヒットやこれらの施策が見事に当たり、今では年中安定した集客が可能なお店になりました。その結果、しっかり儲けの出る強いお店となり、2号店、さらに新業態の3号店もオープンさせ、経営は順風満帆といっていいでしょう。
最近では「魚好き・海好きならこのお店!」という動機で利用していただけるお客さんも増え、地域密着のお店の戦い方の王道を歩んでいる印象でした。
ところが、昨年前半からの新型コロナウィルス感染拡大は、夜の酒席が中心のこのお店にも大きな影響を及ぼしました。
しかし、多くのお店がテイクアウトやデリバリーに力を入れる中、テイクアウトでは、このお店の売りである、島の新鮮な魚介メニューをベストな状態で提供するのが難しいと判断。テイクアウトへの参入はあえて見送り「たこしゃぶ」を自宅で楽しんでいただくセット等の通販を、現在準備中です。
魅力の【本質】に気づけたことで、方向性が明確になり、コロナ禍という厳しい現状においても、ブレることなく前に進んでいるお店です。
【土屋先生からの一言】
あなたのお店は、お店のどこ(料理?雰囲気?店主の人柄? etc.)がお客さんにうけていますか?
コロナ禍においては、飲食業も今までと違う取り組みは必須と言えますが、お店の魅力の【本質】をしっかり見極めたうえで取り組んでいただければと思います。
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