第50話 ギャップを埋める

今回は、数年前に某金融機関の開業相談会でお話しさせていただいた、開業希望の方のちょっと驚く話をご紹介したいと思います。

その方は、カフェの開業を希望されている、40代前半の女性。元気なアラフォー世代です。愛知県の郊外にすでに土地を購入済とのことでした。

まず初めに、なぜその場所でカフェ開業希望なのかを伺うことにしました。

「実は、○〇町は、私が生まれ育ったところなんです。」

個人でお店を開業する場合、生まれ育ったところというのは、土地勘があり、地縁・血縁者も比較的多いもの。成功確率がアップする選択の一つです。

そして、「カフェという場を、地域の方の交流の場、情報発信の場にしていきたい!」とのこと。なかなか良いお考えと思います。

しかし、初年度の売上計画を見せていただいて驚きました。

モーニング  ○人×○円=○円
ランチ    ○人×○円=○円
カフェタイム ○人×○円=○円

そして、夕方6時閉店・・・

これでは、普通の喫茶店です。【地域の方の交流の場・情報発信の場】はどこにいってしまったのでしょう?

仮にこれでスタートすれば、まず成功は難しいでしょう。運よくやっていけたとしても、それは、普通の喫茶店として経営が成り立っているということで、本来目指したカフェではないはず。

この方には、計画書よりまず「カフェという場を、地域の方の交流の場、情報発信の場にしていきたい!」という思いを形にするための具体的なメニューやサービスを考えることが第一というお話をしました。

それには情報が不足しています。こういう、コンセプト重視のお店を開業する場合、二つの指標が必要と私は考えます。

1.理想のお店(自身の体験などからの憧れのお店)
2.ベンチマーク店(メニュー・単価・内外装など目標とするお店)

この二つの指標をできるだけ明確にしたうえで、周辺の競合店調査をするべきです。そうじゃないと調査になりません。

お話を伺った限りでは、憧れである理想のお店には5年以上前に一度行ったきりだそうですし、ベンチマーク店もはっきりしていない。当然、商圏内の競合店調査もまだのようでした。

それらすべてを十分検討したうえでなら、モーニングをやるのもランチをやるのもいいでしょう。

結局予定の相談時間が来てしまい、その方とはそれきりだったのですが、その後、カフェをオープンしたという話は残念ながら聞いていません。
ここまで極端ではないにしても、開業希望の方でこういう「?」なケースは結構見受けられます。特に個人でお店を開業される方はこのパターンが結構多いです。

また、何年も営業している方でも間違えてしまうケースも少なくありません。

■中華料理店の例
2号店は、こだわりのラーメン専門店をやりたい!にもかかわらず、家賃が安いからといって、住宅街立地のテーブル席もある、広めの物件を契約?

■手打ちうどん専門店の例
新たな競合の出現で売上が低迷し、競合(チェーン店)に対抗するため、セットメニュー中心のメニューにリニューアル?

『そんな初歩的なミスはしないよ』と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは、私が実際に相談を受けた方々のお話です。

新規開業や新店オープンという“チャンス”や、お店を取り巻く環境の急な悪化という“ピンチ”。そんな時はたいてい、理想(予測)と現実の“ギャップ”に直面します。『思ってたのと違う!』といったところでしょうか。

現実から目をそらさず「お客さんが満足すること」と「お店(あなた)のやりたい事orやるべき事」が限りなくイコールに近づけるよう、一つ一つ丁寧に、冷静に“ギャップ”を埋めていってください。

それにはまず、お客さんの声、スタッフの声、さらにはご自身の心の声に耳を傾けてみていただければと思います。


【土屋先生からの一言】

今はコロナ禍です。飲食店にとって過去最大のピンチと言っていいでしょう。まずはテイクアウトだ!次はデリバリーだ!さらに通販だ!と、あらゆる対策を講じてイートインの減少をカバーするために行動するのは確かに大切です。

ですが『それは本当にウチのお客さんが求めているのか?』『お店としてそれはやるべき事なのか?orウチだったらどんなやり方があっているのか?』という点をしっかり考えていただくことも必要な事。

そうすることで、理想と現実の“ギャップ”は限りなく埋められると思います


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