第129話 突き抜ける

今回は、ある事を追求し続けていたら、ライバルがいなくなった、というお話です。

ある地方都市のさらに郊外の席数18席の小さな和食店。10年前には、赤字が続いて、一時廃業も考えていたお店でした。

ご主人の料理の腕前はかなりのもの。素材も充分吟味し、調理も手間ひまかけている。しかし、周りのお店を意識し、割引クーポンを常時発行して、飲み放題付きの夜のコースがクーポンを使えば4,000円弱と、居酒屋並みの価格で提供していました。

するとどうなったと思いますか?

ご主人曰く

「美味しい料理を、良心的な値段で提供してくれるお店」という評判が立ち、人気店・繁盛店になることを内心期待していました。」

しかし、答えは「ノー」でした。マスコミにも紹介されたのですが、それは“激安”のウマいお店としてでした。その事が、かえってお店の経営を悪化させてしまう事になりました。

お得や安さに反応する人達が、お店に押し寄せてくるようになりました。満席でお断りすることもしばしばだったとか。

その結果、居心地の悪くなった常連さんが徐々に去り、最後は、お店本来の客層とは全く違う人達に占領され、儲からないお店になってしまったのです。

特に地域密着の小さなお店が安売りをするとたいていこういう結果になってしまいます。もちろん、何か狙いがあってやっているのなら悪いとは言いませんが・・・

こうなって初めて、ご主人は愕然としたそうです。

『こんなの自分の店じゃない!』

それから生みの苦しみを伴った、本当のお店づくりが始まりました。私が出会ったのもこの頃です。それから多くの改革を行いました。

・薄利多売をやめる事

・クーポンや割引で、お客さんを集めない事

・お店の魅力や料理の魅力をお客さんにアピールする事

そして、一番重要な事は

 自分が目指しているものと、お客さんが望んでいるものをきちんと言葉にして、それをすり合わせていく事でした。

→お店の“思い”を明確にする

さらに、その“思い”をお客さんに伝えていく事。

このお店は、高品質な料理とサービスで、お客さんを徹底的に満足させる事に力を注ぎました。

【大切なひと時を過ごすなら○○(店名)が一番】を目指して

当然、客数は一時的に減少します。しかし、本来のお客さんが少しづつですが増えてきました。“安さ”や“お得”ではなく、お店の“思い”に共感してきてくれているお客さんがじわじわ増えていったのです。

こうなると、さらに上質なサービスへのニーズも強まり、客単価はますます上昇していきます。

そして、平均客単価が8.000円を超えた時、それは起こりました。なんと、競合店がなくなったんです!

クラブのような接待メインの一部のお店を除き、商圏内で、夜の客単価8,000円を超えるお店は他にない事にご主人は気づきました。

一般的に、居酒屋やレストランなどの場合、どのエリアでも客単価3,000円前後が競争が一番激しいと思います。このお店は、一番厳しい価格帯を大きく越えた結果、地域に競合店がなくなりました。

あなたも一度確かめてみてください。グルメサイトなどで、ジャンルやエリアを大まかに選んで検索してみてください。客単価3,000円のお店の数と8,000円のお店の店舗数の違いを。

グルメサイトに掲載されているお店が飲食店のすべてではないですが、大体の傾向はわかると思います。

価格競争は不毛の戦いです。最安値を達成したとしてもそれはホンの一時のこと。すぐに新手・上手が現われるものです。

コスパがいいとかリーズナブルというのも危険です。言葉の本来の意味とは違い“安さ”ばかりがクローズアップされがちです。ニーズも多いかわりに、競合も一番多い価格帯。利益を削ってのサービス合戦、魅力アップ合戦になってしまっているのが現状ではないでしょうか。

つまり、最安値もコスパもリーズナブルも体力勝負。地域密着の個店・専門店には向いていないんです。

ご主人がしみじみ言ってました。

「土屋さん、最近ふっと周りを見たら、同じような値段で同じようなメニューを提供しているお店が全然見当たらないんですよ。周りを気にしないでいいって気持ちいいですね~。」


【土屋先生からの一言

あなたのお店の価格帯はどのあたりですか?

お客さんとの価値の共有をふまえた

[魅力アップ~客単価アップ]

この積み重ねを地道に繰り返していけば、競争という荒波を必ず【突き抜け】ていただけると思います。


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