第126話 サイン

今回は、サインの話をしたいと思います。と言ってもお店の看板類の話ではありません。お客さんが発している“サイン”を読み取ることで、業績がアップしていったお店の話です。

[事例その1]
下町にオープンした、スペイン料理のお店。オープンから2年、黒字と赤字を行ったり来たりと[鳴かず飛ばず]の状態でした。

シェフは一流のスペイン料理店で修行を積んできた人。味ではどこにも引けはとりません。良く利用してくれる、熱心なファンもできましたが、まだまだ少数でした。

しかも、数少ない常連さんも、スペイン料理通というわけではなく『ちょっと変わったお店ができたから、行ってみよう。』というきっかけで来店してくれた方が大半。

なので、メニューの「タパス」(スペイン料理店の手軽に食べられる小皿料理の事)を指さし、「パスタ頂戴」といった感じで注文されるお客さんも結構いらっしゃったとか。
さらに、フォークとナイフを使いにくそうにしている、常連さんも少なくなかったそうです。

そこでオーナーは決断しました。シェフの猛反対を押し切って、お箸をおくようになったんです。要はスペイン料理の専門店とか、スパニッシュレストランという、“垣根”をとっぱらって、気軽に楽しめるお店にしました。

オープン当初から気に入って通ってくれていたお客さんにとって、そのお店はスペイン料理の店じゃなく“ワインも飲める洋風居酒屋”だったのです。

お店がそこに気づいた結果、お箸の用意に始まり、ドリンク飲み放題、コース料理・セットメニューを順次投入し、週末はまず予約でいっぱいになる人気店になっていきました。(15年ほど前のまだ“バル”業態が珍しかった頃の話です)

[事例その2]
料理は辛口のグルメ評論家も認めたクオリティ。一流料亭で腕を磨いてきたご主人が満を持してオープンしたお店でした。しかし、業績はもう一つパッとしない・・・そんな和食店がありました。

ある時、店主がそもそも“なぜ”料理人になろうと思ったのか?という点に改めて気づいたことで、売上が上昇カーブを描き始めたのです。

実はご主人が二十歳ぐらいの時、自分がどういう道を歩めばいいのか悩み、当時勤めていたお店を辞めて、単身アメリカに渡ったそうです。とても落ち込んでいた時に、ある美味しい料理を食べて思わず笑顔になったのだとか。

『こんなに落ち込んでいる時に、思わず笑顔になってしまうなんて・・・料理ってすごいな!』

料理が人に与えるパワーに感動し、自分も料理で人を明るく元気に笑顔にしよう!と心に誓ったのが、そもそも料理人になるきっかけだったそうです。

しかし、そんな人生初と言っていい、大きな決断を忘れる事はないはずですが、その事と日々の店舗運営のお悩みとがうまく結びつかなかったのだと思います。

ご相談に乗った時、最初に私はお伝えしました。

『お客さんをよく観察してください。お客さんのちょっとした表情の変化や言葉の端々などから、お店をどう思っているのかをできるだけくみ取ってください。』

結果、ご主人は気づきました。思い出させてくれたのは、お客さんの素敵な笑顔でした。

『みんなすごくいい笑顔をしてくださっている。そうか!これが自分が求めていたことだった!!!』と。

ご主人が『“なぜ”料理人になろうと思ったのか?』を改めて思い出した事で、そのお店は、

料理の達人がふるまう“絶品和食”のお店

から

みんなが幸せな気持ちになれる“笑顔づくり名人”のお店

になりました。

メニューも接客スタイルも何も変わりませんが、ご主人とお客さんの気持ちが繋がったことで、ファンが増え、売上がアップしたのです。


【土屋先生からの一言

自店の強味や魅力って、わかっているようで、実は“どこが”お客さんに受けているのか?といわれると、結構認識がずれている場合があります。

「顧客のニーズをつかめ」なんて、昔からよく言われますが、地域密着のお店の場合、大掛かりなアンケートも、グループインタビューも必要ないんです。

大事なのは、もっとお客さんに意識を向けること。お客さんの表情や、お客さん同士の会話の端々、あるいは帰りがけの何気ない挨拶等々、あなたのアンテナの感度をMAXにして受信してください。

『なぜ、いつも来てくれるんですか?』と心の中で問いかけてみてください。

本当に親しい方には、直接聞くのもアリです。

日々の営業の中で、お客さんは教えてくれています。様々な形で【サイン】を出してくれているんです。


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