第123話 有言実行

今回は、お店の“考え方や姿勢”がお客さんに伝わる瞬間のお話をしたいと思います。

リーマンショックの頃、とあるお店が、売り上げ不振に陥り、焦りから、地域密着の個人店がしてはいけない、安売りに走ってしまいました。

激安ランチ、さらにお得なクーポン、安さと特典を強調した広告・・・

一時的にお店は活気を取り戻し、新規のお客さんも結構来てくれました。

『これで大丈夫だ』ご主人はその時、思ったそうです。しかし、多くの注文を必死でさばきながら、何か違和感を覚えていました。

ほどなくして、その違和感は現実のものになりました。

客層がすっかり変わってしまい「美味しい料理とお酒でくつろげる隠れ家」だったそのお店は安売りのランチやディナーで賑わう、落ち着かないお店になってしまいました。

結果、それまでお店を気に入ってくれていた多くのお客さんが離れて行ってしまったのです。

この失策で、お店は一時瀕死の状態に!

追い詰められたご主人が

「どうせダメになるのなら、最後は自分のやりたいようにやろう!」

と開き直った事で徐々に回復してきました。

ご主人は、原点に帰って「美味しい料理とお酒でくつろげる、大人の隠れ家」を改めて追及しました。

その結果・・・

「早く手軽に食事を済ませたい人には向いていないお店です」

「お酒を飲まない方は他のお店へどうぞ」

「大人数の宴会はできません。」

「食事中に席を立ったり、騒いだりするお子様はお断り!」などなど。

これらの注意事項をメニューブックやホームページなどに明記したのです。
※実際の表現はもっとソフトですが

一見『高飛車な店だな』と思われそうですが、実は違います。

これもひとえに【お店の“本当の”お客さんを守る】ため。過去の苦い経験から、二度と大切なお客さんを裏切らない!という“決意が”そこには感じられます。

つまり、お店を気に入ってきてくれている人、お店と波長の会う人が寛げなく

なる可能性があるものを、すべてシャットアウトする、といった感じです。

かなりの荒療治でした。安売りで集めたお客さんは一気にいなくなります。

しかし、これができたのも個人店ならではかもしれません。
※もちろん“覚悟”は必要ですが

そして、徐々に昔の常連さんが戻って来てくれるようになりました。さらに、その常連さんが (お店が来て欲しいと思っていた) 新しいお客さんを連れてきてくださるようになっていったのです。

そんないい循環がさらに加速する出来事がある夜起こりました。

その夜は、いい雰囲気で楽しんでいた常連のカップルが2組。おいしいお酒や料理が随分すすみ、寛ぎの空間で“まったり”していたそうです。

そこに、6人ほどの新しいグループが入って来ました。そして、その時のオーナーのとった【行動】が、その2組の常連客を一瞬にして信者客にしてしまったのです。

このオーナーがとった【行動】というのは・・・

「すみません。もう予約で一杯なんですよ。」

「大将、このあと予約入ってるの?」新規のグループがお店を去った後、カウンターに座っていた一人の常連さんが訊きました。

「入ってないよ。だからゆっくりしてってよ。」

2組の常連さんが驚いた瞬間です。20席ほどの小さなお店ですが、今お店に来ているお客さんは4人。まだ席は充分空いています。

6人の新しいグループは、2人のお子様連れだったそうです。別にお子様連れをすべてお断りするわけじゃありません。

でも、10年以上このお店をやってきたご主人は感じたのです。

『このグループは多分騒がしい・・・』

店内には、いい雰囲気で楽しんでくれている常連さん4人。

わざわざ来てくれた新規のお客さんを入れたい気持ちももちろんあります。

でも、この状況ではオーナーはそうしなかった。

日頃宣言している、お店の“思い”を反映した行動といっていいでしょう。

まさに【有言実行】です。

その日以後、この2組のカップルが、さらに頻繁にお店を利用するようになったのは言うまでもありません。

さらに、この“出来事”は常連さんから口コミでじわじわと広がっていき、お店の集客はさらに安定したものになりました。


【土屋先生からの一言

「不言実行」というのは日本人の美徳を表す代表的な言葉ですが、今時の店舗経営には向いていないと私は思います。

何もいわなくても、お店の料理やサービスや、あなたがかもし出す雰囲気から、わかってくれるお客さんは、よほど感度のいい人。(非常に少ないはず)

やはり言葉で伝える事が大切です。それによって、お客さんの多くはお店の“思い”を“頭”で理解してくれます。

そしてその言葉に行動が伴った時、今度はお客さんが

“心”で理解(共感・感動)

してくれるようになるんです。


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