第106話 ギャップとコラボと経営力

今回は、コロナ禍でもウェイティングができる事も少なくない、ある人気店の“強さの秘密”をお伝えします。

このご主人ならではという部分もありますが、このお店の考え方や行動は地域密着のお店が勝ち残っていく参考にしていただけるのではと思います。

そこは30席以下の小さなワイン酒場。外観はぱっと見、居酒屋か小料理屋さんといった風情で、店頭には看板やのぼり等の販促物は一切なし。

さらに、店内が全く見えない入り口は初めての方がふらっと立ち寄れる雰囲気ではありません。(ご主人曰く「人通りが多い路面店なので、フリー客が入りにくいことをあえて意識した」との事)

私がよく勉強会などでお伝えしている

「ぱっと見て何のお店かわかる外観にしていきましょう」
「店前は大事!お店の魅力や価格帯が想像できる情報を発信しましょう」
とは真逆ですが、このお店の場合、“ギャップ”狙いなのでOKといえます。

一歩店内に入ると、さらに混乱は深まります。まずは店主が酒屋さんの定番である、“超”和風な前掛けを付けてお出迎え。内装もBGMも昭和レトロ。さらにメニューブックに目をやると、だし巻き玉子、枝豆、味噌おでん、フライドポテトなどの、居酒屋メニューが並んでいます。

しかし、一見居酒屋風ですが、

牛すじ煮込みにガーリックトースト添え

枝豆は茹でではなく、香ばしい焼き枝豆

フライドポテトもガーリック強め

個性の強い八丁味噌を使いながら、赤ワインとの相性抜群な味噌おでん

などなど、どれもワインに合うものばかりです。

極めつけは、

ご主人がソムリエである事!

有名レストランやダイニングバーなどで修行をしてきた実力者。しかし、全くアピールしていないので、お客さんはほぼ知りません。通っているうちに、偶然気づいてさらにファンになるという流れ。これもこのお店ならではの戦略。

ここまで個性たっぷりだと、マスコミにも受けます。オープン以来メディアが定期的に紹介してくれています。

お店を始めて、もう10年以上経ちますが、オープンからずっと好調を維持しています。コロナで一時的な落ち込みはありましたが、今日も元気に営業中です。

このお店の人気の原因をもう少し詳しく見ていくと、そこには後発の無名のお店の勝ち方・戦い方のヒントが見えてきます。

ヒントその1【人と(特に大手と)同じことはやらない】

普通、ソムリエの方が開業されるなら、おしゃれなワインバーかな?と思いがちですが、「ソムリエがワインバーじゃ当たり前すぎて、大手や歴史のあるお店に勝てません」と彼はその考えをバッサリ切り捨て、お客さんはどんなお店を求めているのか?いろんなお店に行って食べ(飲み)歩きもし、どんな時にどんなお店に行きたいのかを徹底的に考えたのだとか。

結果たどり着いたのが今のお店、というわけです。

ヒントその2【同業他店は競合ではなく仲間】

人と同じことをしないから言えるのかもしれませんが、この考え方も重要。

彼のモットーは『同業他店は競合じゃない。チェーン店こそが最大の敵』というもの。チェーン店は立地選定やマーケティングなどに高いノウハウがある。

「料理が美味しい、だけでは、自分のような歴史のない個人店では勝てません。」と彼は言います。だから仲間(地域密着の同業他店)と協力する。

例えば、同じ新メニューを複数のお店で同時に打ち出していく。といった展開。

個人店1店が新メニューを打ち出してもなかなか話題にはなりませんが、こんな展開をすれば、注目を集める事も可能です。実際マスコミにも取り上げられ話題になりました。

ヒントその3【経営と運営の分離】

ご主人のもうひとつのモットーに『新規開拓は経営者の仕事、来てくれたお客さんを常連にするのはスタッフの仕事』というものがあります。

個人店の多くは、経営者自身が調理場の責任者として、あるいはホールの責任者として誰よりも現場で働いていらっしゃいます。やむを得ないことですが、どうしても本来の社長業がおろそかになりがちです。

しかし、自分を労働力として計算しなければ、当然人件費がアップします。また運営を任せられる、スタッフの育成も大切です。高いハードルですが、ご主人は開業当初からそこを目指してきました。

結果、ご主人の店舗運営に割く時間が減るにつれ、顧客開拓や同業他店との調整・交渉、マスコミへのアプローチなどに十分な時間を割けるようになり、強いお店になっていったのです。


土屋先生からの一言

もしあなたのお店の業績がイマイチなら、まずは

【人と同じことはやらない】を追及してみてください。

キーワードは“ギャップ”

正攻法ももちろんありですが、メニュー、接客、販促等に、あなたのお店の
“フィルター”を通すことを意識していただければと思います。


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