第87話 恐怖の1割引

今回はお店の“儲け”についてのお話をしたいと思います。今、多くの飲食店さんは売上づくりに苦しんでいます。とにかくお客さんが来てくれません。

そんな時「もう少し安くすれば、お客さんは増えるのでは?」といった気持ちが脳裏をかすめた経験は多くの方があるんじゃないでしょうか?

値引き販売は、今もよく使われている手法です。しかし、その値引き販売がどれほどお店に影響するのかをきちんと把握して実施されているかとなると、お店(特に個人店さん)においては「?」が付くケースが少なくない、と私は感じています。

ですので、ここからはモデルケースを例に、値引き販売による売上や収支の変化を見ていきたいと思います。

仮に今、月商100万の蕎麦屋さんがあったとします。

話をわかりやすくするために、このお店は、1杯1,000円の「天ぷらそば」だけを売っているものとします。

毎月、延べ1,000人のお客さんが食べに来てくれていたとすると、

1,000円×1,000杯=月商は100万円 となります。

その場合経費の内訳は、

食材費(売上の30%)+人件費(売上の30%)+水道光熱費・販促費等(売上の15%) 

変動費の合計は75万円

家賃(売上の10%)+支払利息・リース料等(売上の8%) 

固定費の合計は18万円 

※飲食店の経費の標準値で算出しています

つまりこの蕎麦屋さんの月次の収支は

売上100万円-変動費75万円-固定費18万円=7万円と試算できます。

※飲食業界では、営業利益が5~8%が平均と言われているので、平均的な収支です

しかしその後、競合の出現などでお客さんが1割減ったとします。

1,000円×900杯=月商は90万円にダウン。

この場合の月次の収支は、

売上90万円-変動費(70~72万円)-固定費18万円=0~2万円

という試算になります。

売上が減った分だけ食材等の変動費も下がるはずですから、売上ダウン直後の収支は最悪トントンか若干プラスといったところでしょう。時間が経てばもう少し変動費は下げられるはずです。

ただし、お客さんが減って売上がダウンした分、何か手を打たなければいけません。

そしてこのお店は、お客さんを取り戻そうと『1割引セール』を実施したとします。

1割引(10%OFF)、わりと日常的に使われている値引きじゃないでしょうか?しかし、その『1割引』がお店の収支に及ぼす影響は予想以上のものです。以下、具体的に見ていきたいと思います。

『1割引セール』のシミュレーション

1割引なので、売値は900円になります。そして価格を下げたことでお客さんは、ライバル出現前と同じに戻ったと仮定します。

そうすると売上は、

900円×1,000杯=90万円

お客さんが1割減った時と“売上そのものは”同じですね。

しかし、以前と同じ数だけ売るわけですから、変動費も以前と同じく75万円かかってきます。固定費はもちろん18万円で変わりません。

すると、1割引セールを実施した場合の収支は

売上90万-変動費75万-固定費18万=▲3万円

つまり赤字に転落してしまうのです。

しかもこれは月商100万円規模のお店の試算。

これがもし月商500万のお店ならば、15万円の赤字

さらに月商1千万のお店ならば、30万円の赤字になってしまいます。

そして、ここからが最も重要なんですが、

この試算は1割引セール導入1か月後の収支結果。

当然ですがお店は継続していくものです。

時間が経つと値引きの効果は薄れていき、1か月もすればまた業績の悪化に頭を悩ませる事になるでしょう。

そうなると『もっと割引きするしかない・・・』という流れになりがちです。その結果、深い沼にはまっていったケースを今まであちこちで見聞きしてきました。もし、1割引に踏み切る前に、違う対策をとっていたなら・・・

まさに【恐怖の1割引】なんです。

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【土屋先生からの一言】

地域密着の中小企業や個人経営のお店では、安売り、割引はタブーです。

その理由は3つあります。

その1.

価格競争は必ず規模の大きいところが勝ちます。小が大に価格勝負を仕掛けるのは自殺行為と言っていいでしょう

その2.

価格を下げて売上アップを目指すという事は、それだけ多売になるわけです。席数、スタッフ、レシピ等々、あなたのお店は多売に向いていますか?

その3.

価格を安くする事で、あなたのお店のお客さんとは違う層の人達がやってくるようになります。お店の雰囲気が変わってしまい、元々のお客さん(常連さん)が去っていく事になります

そして、一度下げた価格をもとに戻すのは至難の業です・・・

【恐怖の1割引】覚えておいていただければと思います。


【事務局からのお知らせ】

4月29日金曜日は更新をお休みします。
大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。

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