第88話 きっかけ

今回は、あることを“きっかけ”にテイクアウトで一定の売上がつくれるようになった事例を紹介したいと思います。

まだ正月気分が抜けきらない、1月上旬のある日の午後、1本の電話がかかってきました。

「土屋さん、やりました。売上新記録です!」電話の向こうの声が凄く弾んでました。

新年の挨拶もそこそこの電話でしたが、こういう連絡は特に嬉しいものです。

売上新記録というのは昨年12月のテイクアウト売上の事でした。

このお店はとある地方都市のさらに郊外にある中華レストランです。ラーメン・餃子・チャーハンといった中華の定番メニューももちろんありますが、八宝菜や麻婆豆腐、青椒肉絲といった一品料理が美味しいお店です。なかでも酢豚は絶品!

一昨年、コロナの影響で夜のお客さんが激減し、お店は方向転換を迫られました。でも、中華の決め手は『できたてアツアツの温度』というこだわりで20年以上地元の人気店としてやってきたご主人はテイクアウトやデリバリーの導入に消極的でした。

しかし、夜の(イートインの)お客さんは一向に戻ってきません。そんな時、以前私の勉強会に参加していただいたご縁のあった息子さんからご相談があったのです。

テイクアウトに取り組みたいが、お店で提供するものとほぼ同じ状態(できたてアツアツ)で提供したい。という非常に難しい(矛盾した)ご相談でした。昨年の夏、デルタ株が猛威を振るった、コロナ「第5波」の頃でした。

「“おせち”をやりませんか?」私は息子さんに提案しました。

地方ならではかもしれませんが、そのお店の土地は自前。しかも家族経営なので、都会のお店やチェーン店よりは協力金などでしのげます。

そこで、年末に向けてじっくり対策していこうという事になりました。

テイクアウトに後ろ向きだったご主人も“おせち”なら、ということで了承してくれました。というのも、それまでもごく一部とはいえ、常連さんのリクエストに応じて、おせちを提供していたことがあるんです。

おせちは元々お供えです。昔は新年の三箇日は台所を使わない風習もあったのだとか。そんなおせちは保存食。できたてアツアツじゃなくてもOK、というわけです。

結果、売価5,000円と10,000円の2タイプの「中華おせち」が完成。おせちは以前経験があるので、結構スムーズに形になりました。

告知は常連さんへのDMや、来店客への声掛け、さらに近隣の知り合いへのお知らせを実施。こういう時、日頃から地道に収集していた顧客リストや、地域の行事や集まりなどにまめに顔を出してきた実績がモノを言います。告知できるようになったのは11月に入ってからでしたが、順調におせちの注文が入り始めました。

地元の人気店でお客さんと良好な関係づくりをしてきたとはいえ、初めてのおせちがなぜ順調に売れたのか?以前、フレンチのお店でおせちに取り組んでいただいた時も1年目はイマイチでした。売れ出したのは2年目からです。

これはやはり、今時のコロナ事情が大きく影響していると思われます。たしかに昨年も一昨年も「おせち特需」といわれるほど、おせち市場は活発でした。

コロナ前には年末年始を海外で過ごしていた人たちが、どこにもいけないなら家で豪華なお正月を過ごそうという事で、5万円以上の高級おせちの売上が例年の1.5倍になったというデータもあります。このお店もよく売れたのは、10,000円のおせちの方でした。

今回の中華おせちの売上は、月商の15%。これをどうとらえるかはそれぞれですが、このお店は前向きにとらえていただけました。

電話口でのご主人の話は続きます。

「土屋さん。今年は、色々やろうと思います。お花見、GW、夏休み、秋の紅葉等、色々チャレンジしてみます。」

一つの成功はその人の発想力を豊かにします。どんどんアイデアが出てくるようになります。

テイクアウトの売上新記録は、コロナ禍で頑張ったご主人やご家族への最高の“お年玉”になりました。

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【土屋先生からの一言】

来店してくれたお客さんをおもてなしするのが、飲食店の理想の姿です。しかし、今時は、外食という行動に、大きなハードルが存在しています。

このお店はお正月のおせちを“きっかけ”に、テイクアウトが軌道に乗りました。テイクアウトにあんなに消極的だったご主人も今は、カレンダーと毎日にらめっこしながら、何か“きっかけ”がないか考え続けています。

とにかく、柔軟に考えましょう。柔軟に考え、行動する事で、減り続ける客数と売上への悩みが少しづつかもしれないですが解消できていくものです。

あなたのお店ならではの“きっかけ”を見つけていただければと思います。


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