第113話 問題の本質

我が国の新型コロナウイルス感染症に関する水際対策が緩和され、日本への外国人旅行者が急増。さらに最近の円安で、今後も外国人観光客の伸びが期待されています。

また、コロナ禍で激減していた外国人留学生の数もこのところ増加に転じ、今年9月までの累計で14万3千人を超え、過去最多のペースなのだとか。

私の地元名古屋でも、街に急速に外国人の方が増えてきたのを感じています。コロナ前のような活気が戻ってくるのを期待したいところです。

今回は、そんな流れを受けて、“外国”がキーポイントだった、とあるアジアン居酒屋さんの話をご紹介したいと思います。コロナ前の話です。

そのお店は、大きな駅に近い路面店。店前の人通りも多いかなりの好立地にありました。ふらっと入ってくれるフリー客も結構見込める、いわゆる一等地といっていいでしょう。

しかし、相談に来られたオーナーは渋い表情で切り出しました。

「とにかく、お店の存在が目立ちません。看板をなんとかしたいんです。そのせいで、売上が落ちてきているんです。」

私もさっそく現地をチェック。一等地だけあって、ライバルも多い。派手なネオン看板や街頭での呼び込みスタッフが「当店へどうぞ!」とアピールしています。

たしかにこのお店の看板類は目立っていませんでした。しかし、詳しく話をお聞きすると。このお店の不調は、単に目立たないから、ということだけではないようでした。

私はオーナーに伝えました

「看板を変える前にやることがあります!」

このお店のように「○○で困っています。」といったご相談の場合、その背景にある根っこの部分に問題がある場合が結構多いです。今回のご相談もまさにそうでした。

さっそくヒアリングを開始。メインの客層は20代~30代。近くには、オフィスや専門学校等があり、学生や若いビジネスマンの飲み会利用が多く、平均客単価は3千円弱といったところでした。

競争の激しい一等地で、勝ち残っていくにはまず、お店の“売り”を明確にする必要があります。

私はオーナーに質問しましたが、なかなか“これ”と言った売りが見つかりません。料理人出身のオーナーはどうしても料理中心で考えてしまいがちです。

私は質問を少し変え

「料理以外でお客さんに一番受けているものは何か?」

とお聞きしました。

オーナー熟考の末「強いて言えば、スタッフかなぁ・・・」と一言。

詳しく聞いてみると、このお店のスタッフは、なかなかユニークでした。中国、台湾、韓国、ベトナム、ネパール等、国際色豊か!

近くの専門学校の一つに外国語学校があり、そこの講師や生徒がスタッフとして働いていたのです。

そのスタッフが中々人気で、それぞれお客さんもついているのだとか。お客さんは自分の知っている外国語を少し使ってみたり、スタッフから教えてもらったりなどして楽しんでいる様子。日本語もまぁ通じるから安心感もある。

これは、他のお店では味わえない強味。(少なくとも近隣では)まずここを“売り”にすべき、という提案をさせていただきました。

仕事や学校帰りにプチ海外旅行気分を味わえる「非日常空間」

こんな切り口で攻めてみよう、ということになりました。

いきなりメニューや内装を変えたりするのはリスクもあるので、まずは「お通し」の工夫からしてみようということに。

今までの中華風のお通しだけでなく、他国のお通しも出すようにしたところ、結構好評でした。

次にもう一歩進めて、ネパールDay、韓国Day、フィリピンDay、といったような日を設け、お店全体でその日の「テーマ国」を満喫できる日にすることにも挑戦。実現には難しい部分もありましたが、まず取り組んだ、カレー料理メインの「ネパールDay」は大好評でした。

少し表情が明るくなったオーナーが私に言いました。

「どういう外観・看板にしたらいいか、具体的なイメージがわいてきました。

あの時、ただ目立つだけの看板を作っていても何も解決しなかったと思います。ありがとうございました。そこで、あらためて看板の相談をしたいんですが・・・」

私が今度はすぐに引き受けたのは言うまでもありません。


土屋先生からの一言

お店が不調な時は、つい目に付きやすいものに意識が行きがちです。そこだけ直しても、効果がでなかったり、一時的だったりするもの。

今回のケースも、売上不調の根本原因は、看板ではありませんでした。

【問題の本質】は、お店の“売り”があいまいだったこと!

あなたのお店がもし不調なら、目に付くことだけでなく、その根っこにある問題点を、ぜひ見つけ、まずそこを改善していただければと思います。


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