第114話 過ぎたるは・・・
飲食業界の人手不足。最近その傾向が一層強まってきているようです。
様々なコロナ対策が緩和されつつある今、スタッフ不足に悩んでいるお店も多いと思います。
今回は、コロナ感染が始まる1年ほど前にご相談のあった、あるカフェをご紹介します。客数とスタッフ数のバランスが悪いと、大変よろしくない状況が生まれてしまう、というお話です。
ある時「お客さんがさばききれなくて困っているので、何とかしてほしい。」
という連絡をいただきました。
『売上がイマイチ』とか『お客さんが少ない』といったお話はよくあるのですが、中々珍しいケース。
カフェ以外にも複数の事業を展開されている、ある方からのご相談でした。
早速お店にうかがいましたが、確かに凄かった!カフェは常に満席。併設のショップも買い物客であふれていました。
そこは果物農園が経営するカフェ。強味は自社の農園で採れた、新鮮なフルーツを使ったパフェやケーキが人気のお店です。
私もいただきましたが、大変美味しく、個人的にお土産も買ったほど。週末はもちろん、平日も朝から午後3時くらいまではお客さんでごった返していて、行列も珍しくないのだとか。
社長曰く「とにかくお客を待たせてしまうんです。中には待たせすぎてクレームになっているケースも少しですが出ています。」
さらに「バイトが中々定着しません。時給は地域の相場より高いんですが、慣れてきてこれで上手く回り始めるかなと思うとやめてしまいます。」
社長はまだ話したそうでしたが、現場の意見が聞きたかったので、社長にお願いして、しばらく店長と二人にしてもらいました。
店長の話は深刻でした。
「はっきり言って、全然人が足りません!とにかく、一日中追い立てられている感じです。バイトの子はそのうち精神的にまいってしまって、やめてしまう事が多いです。社長からは、私の管理能力不足だと怒られますし・・・」
「何度も増員をお願いしているんですが、その返事を待っているうちに誰かがやめてしまい、増員希望が欠員補充で終わってしまって、常に人が足りない状況なんです。」
うつむき加減で話す店長の顔にも明らかに疲労の色がうかがえました。
私は、
カフェとショップの行列をきちんと分ける事
や
お待たせお詫びクーポンの配布
等のとりあえずの策をお伝えしました。
ですがしょせんこれは応急処置。抜本的な解決にはなりません。それにしても店長以下スタッフの疲弊は深刻でした。
「詳しい分析等は資料を拝見してからですが、まずは人員増が急務です。」と社長にお伝えし、経営資料の早急な提出をお願いして、その日はお店を後にしました。
それから2-3日後
「副店長が辞めたいと言ってきました。私も説得しましたが意志は堅いようです。」と社長から連絡がありました。
ともかく、慰留に努めるようにお願いして、提出が遅れていた売上等のデータを改めて催促しました。
手元に届いた資料を分析して驚きました。飲食店の重要な経営指標のひとつである「人時売上高」がなんと1万円を超えていたんです!
人時売上高(※)=売上高÷総労働時間
※1人の従業員が1時間にいくら売上を上げたのかを算出した数字
高級店は別にして、飲食業界では一般的に5,000千円以上なら優良店と言われています。6,000円を超えていたら高収益店です。
もちろん、高いに越したことはありませんが、あまり高くなれば、それはお客さんへのサービスが低下しているか、スタッフ1人1人への負荷がかかっていることになります。
このお店はその両方でした。人時売上高1万円超えは、お客さんを待たせ、スタッフが限界までフル回転した結果の数字、というわけです。
社長には、大至急増員する必要があることを改めてお伝えしました。しかし、残念ながら、副店長の辞意を翻すことはできませんでした。
短期間のサポートでしたが、今では適切なスタッフ数になっていることを祈っています。
土屋先生からの一言
オーナー自ら現場に立つことが多い、地域密着のお店ではこういう事はおこらないかもしれません。とはいえ、重要な経営指標はいつも意識しておいてほしいものです。
また、数字は良いに越したことはありませんが、なぜ良かったのか?についてもきちんと把握しておきましょう。
あなたのお店の「人時売上高」はどうですか?6千円?それは素晴らしい!
でもご注意ください。
【過ぎたるは及ばざるが如し】ですから
このコラムへのご意見、ご感想などをお待ちしております。
こちらまでお寄せください→ajimori@clock-work.net
または、味守りプロジェクトFBページまで