第40話 普通のお店の“バトルフィールド”

先週のコラム(第39話)で、地域に根ざした個人店・専門店の戦い方・戦う場はどこか、という点について書かせていただきました。

安くて便利なニーズを満たす市場”は大手の得意分野。ここに参入しては、100%勝ち目がないということ。
そして『特別な日の特別な食事のひと時を、お金を余分に払ってもいいから、味わいたい・楽しみたい。』という市場こそが、地域密着の個店・専門店の“バトルフィールド”だとお伝えしました。

しかし、アッパーなフレンチレストランとか、食通が通う和食店とか、十割そば専門店のような“わざわざ店”とは違い、日常的な飲食の場として愛されてきた昔ながらのうどん屋さんや定食屋さんは、どう戦っていけばいいのか?というお話を今回はしていきます。
※39話をご覧になっていない方は、こちらをチェックしてからこの40話をお読みください。


昼時にはサラリーマンで賑わう、ある定食屋さんのお話です。夜も営業してますが、近所の常連さんがちらほら夕飯を食べにくるぐらい。まさにランチで成り立っているお店です。

一品料理も結構充実していて、気に入ったものがあれば、セルフで追加するスタイル。

時間帯によってはウェイティングも出るほどの人気店なのに、収支を見て驚きました。儲け(営業利益)は本当にわずか・・・

主な原因は第39話でもお話した、昔ながらのお店特有の価格が安過ぎるという点。正確には、提供している価値に比べ売価が低いという事です。

しかし、サラリーマンのお昼のエネルギー補給の場として支持されているお店なので、いきなり値上げはできませんし、高付加価値&高級メニューを投入してもなかなか売れません。

過去の売り上げデータを拝見していて気づいたことがありました。それは毎月25日から一週間の売上がいつも伸びて(客数はほぼ変化なく、客単価がアップ)いたんです。

ご主人曰く「給料日の後は、ちょっとだけお昼に贅沢してくれる」との事。たしかに世の中全般にこういう傾向はみられます。
でも、このお店に毎日毎週通ってくれている常連さんの大半は、給料が出たからお昼に別のお店(例えば寿司や鰻など)に行くといった行動は取りません。

いつもの定食屋で小鉢を一つ余分に付けようとか、みそ汁を豚汁にしようといった方たちがほとんど。財布のひもが固いといえなくもないですが、それだけこのお店を愛している方ばかり。こういうお店のお客さんはほぼ100%男性。

そんな、お店を愛してやまない常連さんに、ちょっとだけ変化というか贅沢を楽しんでいただけるメニューを提案すれば、日常食のお店でも期待できるはず。実際、給料日後の客単価は上がっているのですから。

しかし、お客さんに選んでもらう形じゃなく、最初から一品追加になっているプチ贅沢な定食を売り出した方がわかりやすく注文されやすいものです。
焼肉屋さんのセットメニュー、おでん屋さんの盛り合わせ、ラーメン専門店のトッピング全部のせ等もわかりやすさが注文アップにつながっています。

◆まずは第一歩
毎月25日から月末までの期間限定で『“上”定食』を販売。いつもの定食に一品ついて150円~200円のアップでしたが、中々好調な滑り出しでした。


◆第二の仕掛け
その後、ボーナスシーズンを意識した『夏のぜいたく御膳』『冬のぜいたく御膳』や、昇給昇進などを意識した『お祝い昼膳』を投入。価格も普通の定食の1.2~1.8倍くらいの設定でしたが、その時期になると結構注文が増加、客単価がじわじわ上がってきました。

◆そして加速が始まる
その後は、商談がまとまった時や、上司に褒められた時、昼からの大きなプレゼンに備えて、などお客さんが勝手に利用動機を広げて、“上”定食はもちろん、ぜいたく御膳やお祝い昼膳も毎月安定して出るようになり、しっかり儲かるお店になったのです。


【土屋先生からの一言】

あなたのお店は、日々のランチを食べるのに利用する食堂ですか?

それとも、時間がない時に手軽に立ち寄れるうどん屋さんですか?

こういった、いわゆる“日常食”を提供している普通のお店がいきなり「記念日ランチ」や「贅沢定食」を提供してもまず売れません。

お客さんの日常に起こる小さなハッピーやラッキーをみつけてください。定番メニューにちょっとだけわくわくするような変化を加えてください。それがきっと、地域密着の個店・専門店に有利な“バトルフィールド”で戦える第一歩になるはずです。


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