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第86話 気分を代弁する
少し前の話ですが、損益分岐点売上を達成するのに毎月苦労していたお店がありました。関西のとある居酒屋さんです。料理はお世辞抜きでどれも本当に美味い!さらに、酒好きのご主人が厳選した日本酒や焼酎の品ぞろえも抜群のお店です。
しかし、業績は鳴かず飛ばず。確かに今時「うまい料理とこだわりの酒」だけでは、よほど有名店でもない限り、売り上げは安定しないものです。お客さんに響く、このお店ならではのお店の魅力の発見が急務でした。
気付きその1
そこで、お客さんをよく観察していただくことにしたのです。
結果、元々は呑んべえの“おっちゃん”達をメインターゲットとして想定していましたが、そういうお客さんはそれほど多くありません。それより、見た目にも美味しい料理やセンスのいい空間づくりが、女性客や20代後半から30代の出張族や転勤族と思われるビジネスパーソンに結構好まれていたことが改めてわかりました。
実際フードとドリンクの売れ行きを見てみたところ、一般的な居酒屋さん(フードとドリンクの比率が6:4)に比べ、フード比率が高めでした。
とはいえ、そういった理由で選ばれているお店は、ほかにもあるはず・・・「じゃあ、ウチならではの魅力って何だろう?」中々答えが出ないまま時間が過ぎていきました。
気付きその2
そこで私は、常連さんにアンケートをとることを提案しました。
『なぜお店を利用してくれるのか?』という点について聞いてもらうことにしたのです。
もちろん美味しいからといった回答が一番多く、これは想定の範囲内でした。ただ、2番目に多かったのが「誰を連れてきても間違いないお店」とか「人を連れてくるとすごく喜ばれて自分の株が上がるから」といった回答でした。
この回答を見た途端、料理長でもあるご主人とホールを切り盛りする奥さん、そして私の3人が『これがまさに、お客さんが思う、ウチならではの魅力だ。』と確信したのです。
その後このお店は、「誰を連れてきても間違いない」とか「人を連れてくると株が上がる」といった強味を意識し、
「初デートにおススメです」
「大切な方のおもてなしにどうぞ」
「幹事さんの株が上がる忘年会しませんか?」
等のアプローチを続け、毎月しっかり利益の出るお店になり、コロナ禍の今も元気に営業しています。
お店の魅力を伝えるには、お客さんの気分を代弁すると伝わります。要は、お店を利用することで、お客さんがどう感じるかを言葉にできると結構心に響くものです。
お店の魅力を伝える時ありがちなのが
「くつろぎの空間で、絶品◯◯料理をご賞味ください」みたいなパターン。
このような売り手の気持ち(思い込み)だけで呼びかけても、様々なお店のおもてなしを体験してきている今時のお客さんにはなかなか伝わりません。
特に、お店を利用したことのない新規の方には、おそらく「ふ~ん」で終わり。
ゆったりとしたお店作りと、美味しい料理が自慢なら、それを提供することで、お客さんがどうなるのかを説明すると、お店の魅力は非常に伝わりやすくなります。お店を知らない人にも伝わっていきます。
例えば「くつろぎの空間でこだわりの料理をご賞味ください」ではなく
「その日のストレス、全部リセットできます」とか、
「家族みんなが笑顔になれるお店」といったような言い方。
これはお客さんの気分を代弁したメッセージ。だから伝わるし、心に響きます。
また、こんな例もあります
Before:「こだわり和食の店!」 → After:「笑顔づくり名人の店!」
このお店も、料理はとっても美味しいお店なんですが、業績はもう一つでした。お店が「こだわりの・・・」とか「絶品料理・・・」とアピールしても、お客さんには響きません。
お客さんをしっかり観察していただいて分かったことがありました。このお店のお客さんは一口食べた瞬間、みなさん本当に素敵な笑顔になるんです。
そこで私は、
「ご主人は料理の達人というより、笑顔づくりの名人ですね。」とお伝えしたところご主人は大いに納得された様子でした。
その後このお店は、あらゆるシーンで「笑顔づくり名人の店」というフレーズをアピールし、メニューも内装もスタッフも以前のままで、売上が1.2倍になりました。
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【土屋先生からの一言】
コロナ禍で多くの飲食店さんが、集客に苦労されています。しかし、それはもしかしたら、売り手目線・売り手の思い込みで訴求してしまっている事が影響しているのかもしれません。
お客さんの“気分”をぜひ“代弁”していただければと思います。
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