第85話 もったいない!

今回は最近訪れた、残念なお店の話をしようと思います。反面教師として参考にしていただければ幸いです。

そこは、ピザが“売り”のイタリアンレストラン。外観も内装もセンスのいいつくりです。天井が高く、開放感のある店内で、ゆったりと食事ができる印象でした。

ランチにはまだ早かったのですが、まん延防止等重点措置明けということもあってか、既にお客さんで賑わっていました。期待を込めて店内に一歩足を踏み入れたのですが・・・

入口でなかなかこちらに気づいてくれません。オープンなレイアウトのお店です。お客さんが来店すれば、ホールスタッフはまず気づくはず。でも、案内してくれる方は中々来てくれませんでした。

やっとこちらに気づいた一人のスタッフが足早に近づいてきて私に質問しました。

「何名様ですか?」緊張からか、その顔はまるで怒っているように見えました。

私は『まず、いらっしゃいませじゃないの?』と思いながら、「3人です」と答えました。(その日は妻と娘を連れて久々の家族サービスのつもりでした)

スタッフは、「少々お待ちください。」と言って、一旦中に引っ込みました。

再び数分間待たされて、やっと席に案内されました。

なんとか席に着くことができ、気を取り直して、メニューをチェック。メニューは専門店らしくなかなか充実していました。私と娘はピザを注文。カミさんはパスタをオーダー。

程なくして料理が出てきたのですが、運んできたスタッフは、まるで宅急便の荷物か何かのように、ただおいていくだけといった印象。このスタッフにも笑顔はなし。

さらに追い討ちをかけるかのように、食べ終わるか否かで、スタッフが飛んできて「お皿下げさせていただいてよろしいですか?」と、奪うようにお皿を持っていきました。

食後のデザートとコーヒーを待つ間、もう一度メニューブックに目をやると、そこには、お店のピザ窯の話や、食材について安全で良質なものだけを厳選している事などが書かれていましたが、こんな“もてなし”を受けたあとでは、こだわりも空々しく感じてしまいます。

このお店、料理そのものはかなりレベル高いと思います。盛り付けも器も合格点でした。しかし、あの雰囲気で食べても、美味しくは感じないもの。

今時、激安ランチのファミレスでもなかなか見かけない接客でした。しかもこのお店は専門店、価格もそれなりにします。ランチといえども、お客さんは、空腹を満たすためだけに来ているわけじゃありません。お客さんの期待値は当然高い。そこにあの接客では、美味しい料理が台無しです。

今時は“美味しい”のは当たり前で、いかに“美味しく”食べていただけるかどうかが大切です。

このお店ほど極端な例はないかもしれませんが、“美味しく”を徹底できているお店は思ったより少なかったりします。

りっぱな店構えと内装。経験を積んだ料理人さんが腕を振るう専門店。しかし、実際に足を運んでみると、接客が・・・

これって本当に【もったいない】です。

しかしなぜ、こういうことがおきてしまうのでしょう?

人気のお店のため、いつも忙しく、つい接客がおろそかになってしまう?そうじゃないですよね。スタッフレベルではそういう要素もないとは言えませんが、あなたの周りの人気店はいかがです?お客さんであふれていても、スタッフはいつも笑顔で素敵なおもてなしをしてくれませんか?

つまりこれは、オーナーや店長が、お店の“接客ポリシー”をきちんと伝えていないからなんです。ホールスタッフのスキル不足といった問題ではありません。

仕事の段取りや手順だけをきいて、お客さんを満足させるおもてなしができたら、そのスタッフは生まれながらの才能の持ち主です。

通り一遍の研修で、伝わるものではありません。オーナーの方は粘り強く伝えていってほしいと思います。

この店を、私たちが食事を終えて出てきたときには、10人以上のウェイティングができていました。

私は『このお店はやめておいた方がいいですよ。』という言葉を一生懸命飲み込みながら、行列の横を通り過ぎて店を出ました。

あのお店にまた行くことはおそらくないでしょう。

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【土屋先生からの一言】

あなたのお店の“接客ポリシー”は明確になっていますか?

お店のコンセプトや、オーナーのこだわりをふまえ、お客さんにどう接するか?を明確にしてください、そしてホールスタッフにしっかり伝えてください。

そうしないと、丹精込めたせっかくのお料理も、贅を尽くしたor工夫を凝らしたくつろぎの店内空間も、大変【もったいない】ことになってしまいます。


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