第84話 知らせる努力
今回は東海地方で数店舗を展開している、ある中華レストランの話をしたいと思います。料理は大変美味しい。落ち着いた店内の雰囲気もいい。接客も温かみがあって○。チェーン店とは違う価値=魅力がある。
価格だけを比べればやや高目かもしれませんが、ファミレスのターゲットとは違うお客さんに支持されて、お店も増やし、順調に業績を伸ばしてきました。
しかし、コロナ前の2018年頃から売上は頭打ち。最近では2年連続で前年を大きく割り込んでいる状況です。
社長は頻繁に現場を回り、各店の責任者とのミーティングも密に実施し、色々と手を打ってきました。
まずは、原価や人件費の徹底的な見直しです。
そして次に [メニューの一新] 創業以来初めてグランドメニューを完全リニューアルしました。
しかし手応えはもうひとつとの事で、ご相談をいただきました。
もう少し早い段階でご相談いただいていたらという気持ちを抑えつつ、さっそくお話を伺いました。独自にメニュー分析をしたうえでリニューアルされていたので、メニュー自体にほぼ問題はありませんでした。
しかし、驚いたのは、10年以上ぶりの完全リニューアルという思い切った策を打ちながら、告知をほとんどやっていないこと。HPにも「グランドメニューを一新しました」のテキスト一行のみ。当然メニューページは新しくなっていましたが、トップページでなぜ告知しないのか?なお、このお店はブログやSNSはやっていません。
その後分かったのですが、このお店、広告宣伝費に、売上の0.5%しかかけていませんでした。※飲食店の場合、売上の3-5%程度が一般的
お金をかければいいというものではありませんが、これはかけなさ過ぎです。
10年以上ぶりのメニューの完全リニューアルは、お店の一大ニュースです。しかしそのことを、お客さんに“知らせ”なくては何も始まりません。
このお店の社長はバブル期に飲食業界に入った方。当時勤めたお店(高級レストラン)は連日満員だったそうで、『美味しい料理を作っていれば、何も言わなくてもお客さんが集まってくる。宣伝しないとお客さんを呼べないのは、料理がイマイチだから。』そう信じて、日々料理の腕を磨いたそうです。
修業時代に料理の腕を磨くのは大切ですが、これはかなり偏った考え方。しかも今は全く違う状況にある、というのはご自身もよくわかってはいるのですが、とにかく社長はお知らせが苦手、というか広告嫌い・・・
しかし、そんな社長の意識を変えた出来事が、その少し後にあったのです。それは本店でおこりました。
[朝、店前を掃除していたスタッフと、偶然通りがかった通行人の方との会話]
通行人(以下通)「こちらのお店はランチはやっていますか?」
スタッフ(以下ス)「はい、やってます!11時オープンです。ぜひご利用ください。」
通「こんな近くにレストランがあったなんて!今度家族で来ます。」
ス「ありがとうございます。お近くなんですか?」
通「ええ、〇〇三丁目(※)です。」※本店から徒歩7-8分の場所
ス「そうですか、ではお待ちしてます。」
ちなみに本店はオープンして12年目。そして通りがかったのも地元で生まれ育った方でした。それを聞いた社長は愕然としたそうです。
地域密着のお店の場合、あまり頻繁に広告を打ったりしないので、お店の存在はお店が思っている以上に周りに知られていない事が多い。
これがきっかけで、社長も【知らせる努力】の大切さに気づいていただけました。
さっそく、すぐできる事から始めました。まずは、店舗周りの情報発信(のぼりや看板など)の改善・充実。友人知人への新メニュー新サービスの告知。近隣住宅へのポスティング 等々
こういった基本的な事をしただけで、売上、客数とも少しですが回復。
「今度はLINEも活用してみようと思います。」社長の気持ちは今、やっとお客さんの方に向いてきました。
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【土屋先生からの一言】
情報の伝え方には、電話や手紙やメールなど特定の相手に届けるプッシュ型と、興味のある方の目に触れる場所に情報を出す(新聞広告やSNSへの投稿など)プル型の2種類があります。
プッシュ型でしつこくお知らせをするのはNGですが、世の中は情報洪水です。ほとんどの情報がスルーされています。プル型のお知らせは積極的にやってください。SNSもメルマガも、さらにYoutubeでも、高頻度での投稿や配信が成果を出しています。
どんなに美味しい料理も、感動のサービスも知られていなければ、評判にはならないし、ヒットもしません。つまり、存在しないのと同じです。
美味しい料理が提供できるのなら、そのことを知らせよう。
感動のサービスが提供できるのなら、そのことを知らせよう。
【知らせる努力】は、メニュー開発と同じくらい重要なことなんです。
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