第83話 お店が輝き始める時

今回は、料理も接客もレベルが高いのに、苦戦していたある和食店のお話をしたいと思います。少し前の事例ですが、コロナ禍の今もというか、今こそ大切なことだと思いますので、紹介させていただきます。

大都市の郊外に立地するこのお店、ご相談をうけた時には客数、売上とも年々減少し続けていました。商圏内の人口構成は30-40代が多く、マンションや戸建て住宅の着工も盛んで、今時の日本では少ない、活気のある地域です。飲食店に限らず、駅前を中心に様々なお店の新規出店が盛んでした。

ご主人は私と同世代の昔気質の料理人さん。お話をうかがってみると[ハウスリストを収集して、お知らせを送る]とか[SNSなどで定期的に情報発信をする]といったことはほとんどやっていませんでした。

このあたりの基本はすぐに取り組みを始めていただき、さらに、メニュー分析を踏まえたメニューの見直しや原価低減の取り組みも開始。しかしこれらの施策の効果が出るには一定の時間がかかります。

取り組みを始めながらもご主人にはまだ迷いがあるようで、改めて質問されました。

「料理もお店も前より良くなっているはずなのに、前の店の方が流行っていました。いったい何が問題なんでしょう?」

ご主人の迷いというか心配はわかります。このコラムでも私が一貫してお伝えしている、地域密着のお店の【繁盛の二大法則】(1.定期的な情報発信、2.お店のブランド化)。1.については取り組みを始めましたが、2.についてはまだ手を打っていません。

実はこのお店元々は、30席以下のうなぎ料理の専門店でした。その後人気が出て、60席ほどの大きなお店に移転されたのだそうです。

『これからは、専門店としてでなく、より幅広い方に楽しんでもらえるよう、会席料理などにも力を入れ、和食全般が楽しめるお店にして行こう。』

しかしこれ、地域密着の専門料理店の選択としてはリスキー。お店の個性がぼやけてしまいます。

和食の料理人さんも新たに雇い、意気揚々の移転オープンだったそうですが、ふたを開けてみると、思うように売上が伸びない・・・

そこでまず、お店の強味・魅力の徹底分析(アンケートや常連さんへの個別ヒアリングなど)を行いました。結果わかったことは、

【うなぎ屋さんだった頃の熱心なファンが今でも遠くから通ってくれている】

【新規客に来店理由を尋ねると「うなぎが美味しいと聞いたから」との答えがほとんど】

その他、誰に聞いても「とにかくうなぎが美味しい!」という声が圧倒的!

私自身もいただきましたが、納得の美味しさでした。

このお店にとってやはり、うなぎ料理こそが【お店の核】だったことを改めて認識していただけました。

【お店の核】とはいわば得意分野。店舗力や商品力において他を圧倒的に上まわるレベルで、簡単には真似できないものの事。

このお店がまずやるべきは、原点に帰って「うなぎ料理のお店」というアピールをもう一度することでした。その結果、それまで人気だった松花堂弁当や、お造り中心の御膳などを抑えて「うなぎ料理」の注文比率が大幅にアップしたのです。

お客さんの多くに「競合を圧倒的に上まわるレベル」の料理を食べていただければ、お店の評価は高まります。

しかし、うなぎが美味い、だけでは、情報洪水&コロナ禍の今、お客さんはそうそう来てくれません。そこでさらに、このお店の核となるうなぎ料理はどんな時に食べるのがふさわしいのかを調べ&考えていただきました。要は利用動機です。

その結果、

ハレの日に食べていただくのが一番 

という結論に至りました。

確かにうなぎ料理の魅力にはまって来てくれる方が多いが、同時に、七五三のお祝い、新入学のお祝い、還暦のお祝い、結婚記念日、両家の顔合わせといった、ハレの日使いがきっかけで、常連になり、その後何度も利用してくれている方も多い。

それからは“ハレの日ニーズ”に対応するメニューやサービスを順次投入していきました。七五三お祝い膳、ひな祭り膳、入学お祝い膳等々。

この時まさに【お店が輝き始めた】のです。

結果「○○祝いをやるなら○○の美味しいうなぎ料理で!」という理由で利用していただく事が増え、コロナ禍の今でも堅実経営を続けています。

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【土屋先生からの一言】

今時、圧倒的な差をつけられる商品や、簡単には真似できないサービスはそうはないと思われるかもしれませんが、私の経験上、皆さん必ず何か強味をお持ちです。でなければ、この厳しい時代に地域密着の個人店や小規模店が商売を続けていくのは難しい。

今回のように「料理」という明確な分野に【お店の核】が見つかるとは限りませんが、皆さんのお店にも必ずあるはず。あなたの【お店の核】を早く見つけていただければと思います。


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