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第74話 地縁

日本、いや世界中で新型コロナウイルスの新たな変異株オミクロン株が猛威を振るっています。オミクロン株については、感染力は強いが重症化する可能性は低いとの見方が多いようですが、まだまだデータ不足の感が否めません。我々も、過剰に反応するのではなく、まずは冷静に基本的な感染症対策を継続していくことではないでしょうか?

そして、こんな時こそ前回の第73話でお話した「近隣の法則」がお店の安定経営のカギを握るといっても差し支えないでしょう。今回はこの法則をもう少し具体的に、事例を中心にお話していきたいと思います。

皆さんもご存じと思いますが、リーマンショックの時も、東日本大震災の時も、比較的早い時期に立ち直り、順調に推移しているお店が存在しました。

例えば、私が関わったお店の場合、

「コーヒー専門店」

なかなかなり手がいなかったので、子供のためと思い、思い切ってPTA会長に立候補。結果、大勢の父兄の方と面識ができ、お店は〇〇小学校PTA御用達の店として、賑わうようになりました。

「お好み焼き店」

野球大好きのオーナーは、地元の草野球チームを応援(日曜の早朝練習に氷を提供したり、試合に差し入れをしたり)。結果、チームのみんなが家族連れで、よく来てくれるお店になり、大会があった日等は、お店がそのチームの関係者で貸し切りになるほど。

「居酒屋」

商店街を盛り上げたいという使命感から、組合の役員を努めたところ、お店での組合の集まりや、個人的に家族で来てくれる人が増えて、売上アップ。

等々、具体策はそれぞれ違いますが、考え方はみな同じです。みなさん【地縁】(地域のご縁)を大切にしているということ。

【地縁】とは、同じ地域に住む・あるいは生活することによってできた縁故関係。

地域を基礎とする社会的関係を意味します。

ポイントは(先週もお伝えしたように)地域の方々をいきなりお客にしようと思わないこと。まずは人間関係づくりです。

上記の成功例も、「子供のため」とか「野球が大好き」とか「商店街を盛り上げたい」といったところが出発点。お客が増えそう等、損得勘定で行動を起こしても決してうまくいきません。大事なのは『地域のご縁を大事にしたい』『この町を盛り上げていきたい』といった、いわゆる“志”が大切なのです。

とはいえ、京都や沖縄のような国際的な観光都市ともなると、中々地元重視とはいかないというご意見が多いのも事実。

しかし、以前私が関わった京都の和食店さんは、オンシーズンとオフシーズンによって乱高下する売上や、殺到する観光客で地元の常連さんを何人も失った経験から、私が提唱する地元重視の地域密着店を目指して、業態転換に取り組み、今では地元客中心の落ち着いた和カフェとして経営されています。

以上、ご紹介した事例は、2020年春以前(新型コロナウィルス感染拡大前)の事例です。しかし、コロナによって価値の転換や行動変容が起きても“この部分”は変わりません。そしてそれこそが飲食店経営の根幹をなすものといえます。

※詳しくはコラム69話【深化と進化】ご参照ください

そういえば、2020年、コロナの拡大でイートインが激減した居酒屋さんでもちょっとした成果が出た例がありましたので、お話します。

一昨年の6月頃から急遽始めたテイクアウトでしたが、最初はなかなか売れていきませんでした。お店があるのは比較的賑やかな街中ですが、夜は地域全体が閑散とし、街に元気がなくなってしまったのです。

そこでオーナーは、せめて自分だけでも明るく元気にふるまおうと、毎朝日課にしている掃除の際、店前を通る方たちに声掛けをするようにしました。

声掛けと言っても営業トークは一切なし。もちろん割引券などを配ったりもしません。オーナーは通る方1人1人に笑顔で「おはようございます。」とだけ挨拶をし続けました。そして2週間ほど経ったころ、テイクアウトがじわじわ売れ出したのです。

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【土屋先生からの一言】

地元重視の地域密着店というのは、お店に近いお客さんを最優先で大切にするのがいいよ、ということなのですが、理由は二つあります。

〇理由その1

 一般的に、お店との距離が近い人の方が来店頻度が高いし、固定客化・常連化する確率も高い。もちろん、距離のハンデを乗り越えて、足繁く遠方から来てくれるお客さんもありますが、確率は低い。

〇理由その2

 地元の人1人をお客さんにすることで、その人が所属する地域のコミュニティごとお客さんにできる可能性がある。

繰り返しますが、大事なのは「地域の人をお客にしよう」といった損得勘定ではなく『地域のご縁を大事にしたい』という“志”なんです。

【地縁】意識していただければと思います。


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