第128話 「おいしい」の先

当たり前の話ですが、飲食店とは、食事や飲み物を提供してお客さんをおもてなしするところですね。

そのためにまずは、お客さんに満足していただくための魅力ある“メニューづくり”が欠かせません。中でも、料理人出身のオーナーが経営する、地域密着の専門店は、そこにこだわっているお店が当然多いです。

今回は、あるこだわりのレストランの心温まるお話をご紹介したいと思います

先日、そのレストランのオーナーシェフから1通のメールをいただきました。それは、お客さんから嬉しい手紙をもらったという報告でした。

メールによれば、ある日、初来店の女性二人連れ(お母さんと娘さんだったそうです)がご予約で利用され、お二人は、2時間ほど料理とお酒を楽しみ、そろって満足して帰られたとの事でした。

それからしばらくして、その時来店されたお母様の方から、オーナー宛に感謝の手紙が届いたのです。

以下、お手紙の一部を紹介させていただきます。

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 食事の美味しかったことはもちろんですが、それ以上に素敵な時間と、ご主人の真心をいただき、胸がいっぱいになりました。

 一生懸命生きておれば、やっぱり一生懸命生きている人に出会わせていただけるんですね。

 本当にありがとうございました。

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その方は、早くにご主人を亡くされ、お一人で娘さんを育て、休むまもなく必死で働き続けていらっしゃったのだそうです。

そんなお母様を、結婚を間近に控えた娘さんが、これまでの感謝を込めて、お母様の誕生日祝いに、外食に誘われ今回の初来店となったのだとか。

長年、ご自身の誕生日など忘れてしまうほど忙しかったお母様に、何よりのプレゼントだったことでしょう。

そして、お母様は娘さんへの感謝だけでなく、当日のお店のおもてなしにもいたく感激され、オーナーに感謝のお手紙が届いたというわけなんです。

お店としては、この方たちだけ特別なサービスをしたわけではありません。いつもどおりの接客です。

中々の人気店ですので、会話した時間もそれほど多くはないはずです。

ただ、このお店のオーナーは人の喜ぶ顔を見るのが大好きな人。お客さんをどうやって喜ばそうか・・・年中そんなことを考えている人です。

お客さんの大切な記念日を祝うのに最高の場でありたい!という熱い“思い”を胸に、日々、おいしい料理を提供し、あたたかいおもてなしを心掛けている方です。

ですから、特別なサービスがなくても、会話は少なくても、お母様には通じたんだと思います。

しかしこのお店、昔はこうじゃなかったんです。ご主人の料理の腕前を前面にアピールし、自慢の料理を“どうだ!”とばかりに提供していました。その結果、オープンから2年ほどで閑古鳥の鳴くお店になってしまいました。

それから7-8年かけて、ご主人の“思い”を伝えることを地道に実践されてきた、ひとつの、そして大変素敵な結果がこの感謝の手紙です。

飲食店は、料理を提供するだけじゃありません。お客さんに、料理や接客を通じて“満足”を提供するのが大切な事。

そうでなければ、お客さんは、わざわざ“お金”と“時間”を使って、特定のお店に何度も足を運んだりしてくれないでしょう。

「おいしい」の先 を明確に意識しているかどうか

『“料理”を核としたお店の“おもてなし”を通じて、お客さんにどうなって欲しいのか?』

ここをしっかり考えないと、お客さんは他のお店に流れてしまうかもしれません。

「土屋さん。これ(お母様からの手紙)は私の宝物ですよ。」後日、ご主人がそのお手紙を嬉しそうに見せてくれました。


【土屋先生からの一言

あなたのお店にはどんな 「おいしい」の先 がありますか?

・楽しいひと時を過ごしてもらいたい?
・豊かな気持ちになってもらいたい?
・心から寛いでもらいたい?
・最高の思い出を作ってもらいたい?
・家族の絆を強めてもらいたい?
・明日へのパワーをチャージしてもらいたい? etc.

余談ですが、ちょうどこの原稿を書いている最中、地元ケーブルTVのグルメ番組で、人気の古民家カフェのお客さんにインタビューをしていました。

お客さんA
『“おいしい”のは大前提。落ち着くし、懐かしい感じがしてつい長居しちゃいます。』

お客さんB
『ママに、ちょっと愚痴ったり、話を聞いてもらいたくて、つい通ってしまいます。おいしいコーヒー飲みながらね。』

このお店にも 「おいしい」の先 がありました。


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