第109話 一点集中

今回は、15年以上人気店として支持されている、あるラーメン専門店の開業当時の話を紹介したいと思います。

お伝えしたいのは、料理の品質に絶対の自信を持つ地域密着のお店が、ついやってしまいがちな“ある事”について。参考にしていただければと思います。

今や、地元で知名度抜群のラーメン専門店ですが、1号店の成功までは少し時間がかかりました。

ラーメン職人として腕を磨いてきたご主人が、理想の味を求めて日本全国のラーメンを食べ歩き、試行錯誤の上に完成したラーメンは、個性豊かで魅力的な“作品”に仕上がりました。

商品力の高さと、ラーメンを心から愛する店主。さらに駅近の好立地への出店。必勝の布陣といってもいいでしょう。今から15年以上前の事です。

しかし、オープンしてしばらくは、お客さんの反応はいまひとつでした。その味に惚れこんで、通ってくれる常連客も徐々に増えてはきましたが、一気にブレイクとまでは行かず、一進一退といった状況。

『なぜだろう?』ご主人は悩み考えました。そして、お客さんを徹底的に観察し始めた。カウンターだけの小さなお店は、こんな時、強みを発揮します。

すると、あらためて気付いた事がありました・・・

それは、スープへの反応。ご主人が一番こだわったスープが、お客さんにいかにインパクトを与えているかを改めて実感したのです。

そして、

『このラーメンの一番の売りは“スープ”』

だということを、改めて認識しました。

他店にはない、個性ある味を求めたラーメンの開発で、一番こだわり、そして苦労したのがスープ。

その強烈な個性ゆえ、苦手な方もあるでしょうが、それはそれでOK。逆に大好きになる人も多いはず。

実際、食べて病み付きになり、週に何回も通ってくださる常連がすでに存在していました。

しかし、個性あふれる自慢のスープだけではラーメンは完成しません。個性の強いスープにマッチするオリジナル麺の開発。さらには具材にも徹底的にこだわりました。

結果、お客さんに魅力を伝える段階になると、のぼり・POPなどのショップツールや、チラシなどの広告ツールに「スープは○○、麺は△△、チャーシューは□□ etc.」といった具合に、売り文句をいっぱい並べてしまったのです。

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あなたのお店でもやってしまっていませんか?

『これではダメだ・・・』ご主人、はっと我に返りました。情報過多の今時、お客さんが自分のお店に興味を持ってくれるのは1日の内のほんの一瞬。人の意識と行動の大半は、「仕事」(あるいは学校)と「家庭」(あるいは恋人・友人)という2大“タスク”に使われてしまっています。

できたばかりの地域密着の新店舗が、お客さんに、お店の存在や魅力に気づいてもらうには、わかりやすいアピールが欠かせません。

伝えたい情報を絞り込んで、発信してくことが必要です。そうでなければ、なかなか気付いてもらえないし、印象に残りません。

まずは“最も伝えたい強味や魅力”を【一点集中】で伝えていくべきなのです。

ご主人、さっそく動きました。

店先も店内も広告物も、すべてアピールはスープの事だけに絞り込みました。

結果「特製○○スープの店」という、評判が徐々に広まっていくことに。

こうなれば、そもそも美味しいしお店ですし、週に3回4回と来てくださるお客さんが日に日に増加。また、のぼりや看板の「特製○○スープ」というアピールに惹かれて、新規のお客さんも増えていきました。

ちょうどそんな時期に、マスコミの目にとまり

『△△エリア初!?特製○○スープのラーメン!!!』

として紹介され、人気に一気に火がつきました。

元々、商品力があり、店主のキャラも魅力的で、立地もいいお店です。毎日15回転以上する人気店になるのにそれほど時間はかかりませんでした。

今ではコロナ対策で席数を3割減らしたのですが、前以上に店前に行列ができている元気なお店です。


土屋先生からの一言

「あなたのお店の“一番の売り”は何ですか?」

「あなたのお店の“イチオシメニュー”を教えてください。」

この質問にすぐに答えられたら、お店の魅力をお客さんに伝える準備ができている証拠。看板やのぼり、メニューブックやPOP、さらに広告ツールやSNSの投稿等にも、反映させていってください。

もしすぐに答えられなかったり、「一番は何?」と訊かれているにもかかわらず、2つも3つもでてきてしまうようなら、情報発信する前にやるべき事があります。

まずは、あなたのお店の強味や魅力を【一点集中】で明確にしてください。


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