第105話 それって誰のため?
今回はとある焼肉屋さんのお話。
以前は沖縄料理居酒屋だったお店です。沖縄出身というわけではないんですが、ご主人が沖縄大好きで始めたお店です。料理もうまいし、家庭的な接客も好評で、某グルメサイトでも3.5近い評価をもらっていました。
毎晩酒好きが集い、泡盛で夜遅くまで盛り上がっていたとの事。しかしそこにコロナが襲来!
時短営業やお酒の提供の制限、飲み会・宴会自粛等々、世間の多くの飲み屋さんがそうだったように、このお店も、もろに逆風を受けてしまったのです。
お店は一気に苦戦を強いられることになりました。急遽ランチ営業も始めましたが、夜の売上をカバーできるものではなかったそうです。
実はこのお店、お客さんとの関係強化や認知度アップに驚くほど無頓着なお店でした。ご主人によれば、そのせいもあって、コロナ禍での集客の大幅ダウンに全く歯止めがかからなったのだとか。
“来店されたお客さんのリスト収集はしていない”ばかりか、HPやブログもなし、SNSもやっていませんでした。ご主人が使っている携帯もガラケーという、なんというかある意味徹底(?)したお店でした。
それでも2018年のオープンからコロナ禍が始まるまでの約2年は、駅近で値段も手ごろということもあり、経営は成り立っていたとの事。21世紀どころか令和の今、こういうお店が生き残っていたことに、私は正直驚きました。
経営状態がますます悪化する中、ご主人は必死に情報収集を行い、出した答えが、
焼肉店への業態転換
2020年、新型コロナの感染拡大が広がって、多くの飲食店が売上を落とす中、焼肉店は堅調でした。他の飲食店より強力な換気能力を持つ換気扇が好感を持たれたり、「ひとり焼肉」業態が注目されたり、さらに大手の居酒屋チェーンの焼肉店への業態転換など、コロナ前からの肉ブームもあって、2020年は焼肉店が注目された年でした。
また、沖縄料理店の時は、手づくりメニューが多く、仕込みも大変だったんですが、焼肉店ならその負担もかなり軽減されるという判断もあり、業態転換を決意。
自信満々のスタートだったそうですが、結果は・・・ということで、焼肉店のオープンから3か月ほど経った頃、初めてご相談いただきました。
まず驚いたのは、お客さんにお店の業態転換についてほとんどお知らせをしていない事でした。
ハウスリストがあればDMを出すことが出来ます。お店のブログやSNSアカウントがあればお知らせが出来ます。しかし、知らせることが出来たのは、お店に来た一部の常連さんのみ。
しかも焼肉店という、全く別のお店になるんです。お客さんは、沖縄料理のお店を気に入って通ってくれていたわけですから、「なぜ焼肉店になるのか」を伝えないと、お客さんの多くはついてきてくれないでしょう。
オープン直後、さっそくその影響が現れました。
ご主人は普段、厨房の奥で黙々と調理をする料理人さんということもあり、お客さんの直の反応がつかめていませんでした。(これもちょっと驚き)
焼肉店オープン時にホールを手伝っていた奥さんの話では、新規客以外は、恐る恐る入ってくる方がほとんどで、焼肉店に変わったけれど、経営者は変わっていない事を説明しても席についてくれるのはごく一部の人だったそうです。
お店に入ってきてくれた方はまだいいです。店名も変わったため、店前を通った方(以前のお客さん)の多くは、お店がなくなったと思ったことでしょう。
調べた結果、以前のお客さんの8割以上が来ていないことが判明。売上の基盤となる既存客を自分から切り捨てているようなものです。
遅ればせながら、知人友人経由での口コミ、近隣へのポスティング、最寄り駅でのチラシ配布等で、焼肉店のオープンのお知らせを始めていただきました。『お店は変わったけど、経営者は同じ』という点を最も強調しながら。
しかし、長引くコロナ禍もあり、回復への道は非常に険しいです。
土屋先生からの一言
お店を好転させるために、リニューアルや業態転換という大技は確かに有効です。
劣勢を一気に挽回できる可能性もあります。しかし、大きなリスクも伴いますので、やり方を間違えると、今回のような事になってしまいます。
このお店の場合、そもそも誰が焼肉店を求めていたのでしょうか?お店の(ご主人の)都合や思い込みだけで決めてしまったのではないでしょうか?
これほど極端なケースはめったにないと思いますが、もう少し小さな変化だったらどうでしょう?
・新メニューや新サービスを考える時
・フェアの企画を考える時
・お店を改装する時 etc.
お店の都合や、“こうしたい”ばかりになっていませんか?
そんな時はぜひ自分に問いかけてみてください
「それって誰のため?」と
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