第33話 お客さんの経験値

3週にわたって、お店のメニューの話をしましたので、今回は、お客さんの話をしたいと思います。

お客さんというか、今時の消費者が、どうやって料理やお酒を楽しんでいるか、というお話です。

外食産業の市場規模は、1998年の29.1兆円をピークに縮小に転じました。2012年以降は徐々に持ち直し、2019年で26兆円まで回復したのですが、コロナ禍でまた市場縮小が起きています。(日本フードサービス協会データより抜粋)

一方、住環境の充実やキッチンの進化、さらに、テイクアウトやケータリング、デリバリーといったサービスの多様化によって、都市部を中心に、飲食店以外での“食”の楽しみ方は確実に広がってきていました。

以前、私もあるコラムで「これからの飲食店の最大のライバルは“おうち”かもしれません。」と書きました。

そしてこのコロナ禍です。お店での飲食機会が制限される中、消費者(お客さん)の“食”の楽しみ方の選択肢が広がり、経験値がアップしているのを感じます。

私自身、そのことを実際に体験しましたので、今回お話したいと思います。

友人から去年の初めに届いた一通のメールの内容をご紹介します。

(個人名等は伏せていますが原文のままです)

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件名:「出張天ぷらとワインの会」

> こんにちは、○○です。

>

> 今日は「楽しい夕べ」のご紹介です。

>

>

> 先日友人と出かけた際に、

> 友人の「○○さんのお宅からの夜景素敵よね。。。」の一言で

>

> 「じゃあ、今度パーティやろうよ」ということに!!!

>

> しかし、ただパーティをするだけでは面白くありませんよね。

>

> ということで、板前さんに来ていただいて、揚げたての天ぷら

> 食べちゃおう!!!と

> しかも、板前さんのお兄様が、その日の朝、漁で獲ってきたお魚に

> ななんと、近所の山の山菜、畑からの野菜と。。。もうたまりません!!!

> (私の主人の実家でとれたお野菜も提供させていただきますよ。)

>

-以下省略-

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いかがです?すごく魅力的なお知らせですよね!

自宅開催とはいえ、決してお安くない会費のこのパーティは、あっという間にいっぱいになり、当日はもちろん大盛り上がりとなりました。

このパーティを企画した人は、食のプロ?いえいえ、結婚してご主人もお子さんもいらっしゃる、30代の普通の女性です。

彼女自身、働いているので、顔は少々広いですが、飲食関係ではないですし、イベント・企画会社関係の方というわけでもありません。

普通の人の“素敵な”体験、“非日常”の楽しみ方がどんどん拡大し、そのレベルも高くなってきているのを実感したひと時でした。

しかし、ここで最も重要なのは、「出張天ぷら」でも「きれいな夜景」でもありません。それらは手段に過ぎないんです。

このパーティの真の魅力(強味)は『○○さんや××さんを喜ばせよう、もてなそう』という気持ち。

要は【具体的な相手を想定して考えている】ところ。

当然ですが、

・個人が開催するホームパーティなどは“具体的な相手”を想定しておもてなしを考える

・プロ(飲食店)は“様々なお客さん”を想定しておもてなしを考える

実はこの差が大きかったりします。

我々の所得も低く、住環境も不十分で、様々な関連サービスも未熟だった頃なら【お客さんをもてなす=最大公約数的なサービスやメニューの提供】

で良かったかもしれません。

でも今時は違います。『素敵な夜景を眺めて、出張天ぷらとワインを楽しむ!』

ホームパーティが個人の自宅で開催できてしまう時代。

お客さんの【“食”の経験値】はどんどん上がっています。


【土屋先生からの一言】

「ウチはサラリーマンが多いからこんな宴会プランにしてみよう」

「主婦層メインの店だからこういったフェアが受けるだろう」

「学生街だから、こんなサービスが受けるだろう」 etc.

こういう考え方はさすがに減ってきていると思いますが、以前の感覚でついやってしまっていませんか?(特に時間に追われている時など)

こんな発想はもうやめにしましょう。今時は多分誰にも受けないです。

あなたもぜひ、お店を気に入ってくれている○○さんや××さんや△△さんの顔を思い浮かべながら、新メニューや、新企画を考えてみていただければと思います。それが地域密着店ならではの“強味”だと思います。

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