第29話 集客UP実況中継 タニマチ

タニマチ(谷町)とはもともと相撲界の用語で、ひいきにしてくれる客、または後援してくれる人、スポンサーのこと。現在では相撲界以外に、他のスポーツや、また芸能界などでも幅広く使われる言葉になってきています。

要は見返りを求めず、応援してくれる、熱烈な支持者といったところ。

今回はとあるキッチンのお話。席数30席に満たないこじんまりしたお店なので、大人数での利用はほとんどありません。カップル率の高い、落ち着いた隠れ家店です。

毎年12月はいいけれど1月が苦戦するということで、2020年の1月は、常連さん限定で「2名以上でご来店の方に一番人気の“シェフおまかせコース”(4,000円)を1名分プレゼント」という企画を実施しました。

※写真はイメージです。

いつも年明けは苦労しているので、じたばたしても仕方がない。常連さんに喜んでもらう月にしよう。安易な値引きは良くないけど、常連さんに感謝を込めたプレゼント企画なら、ということで実施したのが「人気コースのプレゼント」でした。

お知らせは、常連さんだけにハガキDMを送付。反応は6%ほど。やはり1月は悪い。他の時期なら20%なんて時もあるお店なんです。時期的にまだコロナの影響は出ていませんでした。

しかし、売上を集計してみてびっくり!そのDMに反応した常連さんの客単価の平均が、なんと4,430円だったんです。

前述したとおり、カップル客が多いお店。単純に考えると、2人できて1人がこの特典を使って2人とも4,000円のコースを食べれば、平均客単価は2,000円になるはず。

すべて2人客とは限りませんし、ドリンクのオーダーもあるのでそこまでではなくても、コースをお一人分“タダ”にしているのですから、客単価は結構落ち込むと思っていました。日頃の感謝が目的なので、それでもいいとオーナーは考えていたのです。

オーナー曰く「確かに、常連さんはコース以外のアラカルトを追加オーダーしたり、お酒をよく飲んでくださってました。しかし、これほどとは思いませんでした。」

まさに嬉しい誤算です。でもなぜこんなことがおこったのでしょう?

このお店が、料理や接客といった、飲食店に欠かせない魅力が結構高いレベルにある、ということはいうまでもないですが、それはあくまで前提条件、決め手になったのはそこではありません。

こういうことって、あなたのお店でも結構起こっているのはないでしょうか?

ここまでではないにしても、

[割引クーポンを一切使わない常連さん]とか、

[フェア中は来店せず、割引期間が終了した後に来てくれる常連さん]や、

[いつもピークタイムをずらして利用してくれるお客さん]などなど

あなたも思い当たることがあるのではないでしょうか?

つまり、コスパとか利便性とかで、お店を評価しているのではなく、お店のご主人や、シェフや女将さんの考え方や姿勢、いわゆるお店が発信している“思い”に共感し、惚れてくれている人たちだからなんです。

そして、

お店がずっと続いてほしいと願っている方たち

です。

まさに“タニマチ”と言えますね。

おかげでこのお店は、昨年の春以降のコロナ禍においても、堅調な業績を残してきています。

——————————————————–

【土屋先生からの一言】

「お客さんと横に並んでコミュニケーションしましょう」私がよく言う言葉です。

もちろん、すべての利用客と良い関係を持とうと意気込まなくていいです。地域密着の個人店さんや専門店さんであれば、あなたやスタッフが気に入ったor波長が合いそうな方だけで十分です。

売り手と買い手、お店と客という“向き合う”関係にこだわっているとなかなかお客さんとの良好な関係づくりは難しい。

お客さんの気持ちをつかむには&お客さんに惚れてもらうには、ほんの一握りのお店を除いて、料理やサービスだけでは足りないものなんです。

大切なのは、お店やあなたに共感してもらうこと。それにはまず、あなたがお客さんに心を開いてください。あなたから発信していくことが重要なんです。

少し前のコラムで、コロナ禍の昨年、すべての月で前年売上げを上回ったお店を紹介しましたが、あのお店もまさにそうでした。

※詳しくはコラム26話27話をご覧ください。

今回のお店もそれができていたから、今まで苦労していた年明けを乗り切れたといえます。

あなたのお店の常連さんを思い浮かべてみてください。“タニマチ”的な方は何人いらっしゃいますか?大切にしていただければと思います。

——————————————————–

このコラムへのご意見、ご感想などをお待ちしております。

こちらまでお寄せください→ajimori@clock-work.net
または、味守りプロジェクトHPまで