第94話 “科学”と“気”
今回ご紹介するのは、20年以上続いている居酒屋さんです。
分類するとすれば総合居酒屋でしょうか。枝豆、冷奴、だし巻き玉子、刺身、唐揚げ、肉じゃが、〆のお茶漬け等々、オーソドックスなメニュー構成の、昭和の香り漂うお店です。
コロナ前までは、毎年着実に売り上げを伸ばしてきましたが、さすがにこの2年は苦戦していました。しかし、第6波が落ち着いてきた3月後半からは順調に回復し、4月以降の売上は2019年に迫る勢いです。
ではなぜこのお店が、ここまでかなり順調に業績を残せているのでしょうか?
もちろん、料理や接客、お店の雰囲気など、どれも合格点のお店ですし、“お店のブランド化”や“定期的な情報発信”にも取り組んでいただいています。
でもさらに、このお店ならではの“秘訣”がありました。それが今回のコラムのタイトルの“科学”と“気”だったのです。
まず“科学”
このお店は、店舗づくりから販売促進まで徹底的に“科学”しています。
例えば食器。結構センスのいい器が多いお店なんですが、そこにも“科学”の裏付けがありました。
【科学1】
売上目標をふまえ、まず目標客単価を設定。次にお客さんの滞在時間や、一人当たりの平均注文数(ドリンク2.5杯。フード3品など)を想定し、それを指標とします。
そして、更にそれを実現するために、どれくらいの皿やグラスやジョッキが同時にテーブルにのらなければならないかを計算し、それに基づいて食器選びをしているというわけなんです。
つまり、食器の選択基準はまずサイズ。それをクリアした上で器のセンスや盛り付けを検討します。
『あ、この皿感じいいね!うちの店の雰囲気にもあってるし、○○を盛り付けたら美味しそうだ!』という理由だけでは選ばないのです。まずはサイズ。
もちろん、インスピレーション優先でもOK。そのほうが食器選びのモチベーションは上がるでしょう。ただ、あとからサイズ確認もしていただければと思います。
【科学2】
販売促進でももちろん、反応の数値化を徹底しています。基本的に値引きはしないお店ですが、反応を見るための特典は用意します。そして必ずチェック!
フリーペーパー、グルメサイト、SNSなどからの問い合わせや予約や集客等々、個々にチェックし、どの時期に、どんな内容で、どんな媒体を使ったら反応がいいかを常に探っています。
こういったことを長年続けていると、広告などの費用対効果が非常に良くなります。つまり、広告や販促の精度が上がってくるわけです。
このように“科学”に裏付けされた、取り組みによって業績堅調なお店ですが、オーナーはあることも非常に重視しています。
【気】
“気”というと、持って生まれた霊感の強さとか、修行によって精神を研ぎ澄ますみたいなイメージですが、実は私たちも日常的に感じていることです。
みなさんも『なんとなく入ってしまった』とか『入ったとたんに、なんだかテンションが上がった』といった経験ありませんか?
別にお店じゃなくても、家でも、あるいは人でもいい。あの家はなぜかよく人が集まる、何故かあの人の周りには自然と人が集まってくる。なんていうのも、同じ原理。
特定の場や人が強い磁力を持っているような感じです。
『なんとなく、お店の空気が淀んでいる・・・』
これは別に、修行を積んだ鋭敏な感覚が必要とかいうものではありません。少し客観的に顧客目線でお店の入口や店内を眺めてもらえれば感じられるはず。
このお店では、そんな時に何をするか・・・
ポンポンと手をたたくんです
別に柏手を打つというような形式ばったものではなく、普通に手をたたく。それによって、店内の淀んだ空気がリフレッシュされるというわけです。
市場の魚屋さんなどの前を通ると、店の人が良く手をたたきながらお客さんを呼び込んだりしていますが、あれも同じ考え方。
またこのお店のオーナーは、スタッフのちょっとした気持ちの変化に気づくのも早いです。そんな時は、さりげなく (場合によってはオーナーではなく先輩スタッフから)声をかけるなどしてすばやくケアをします。そうすることでお店の“気”をいつもいい状態に保てるのです。
“科学”と“気”この一見、相反する考え方をバランスよくチェックすることで、
このお店は順調な業績を残し続けています。
【土屋先生からの一言】
この話をすると笑われる方も少なくないですが、あなたのお店の“気”に淀みを感じたら、ぜひやってみてください。その効果は実証済みですよ。
もちろんその前に、お店を徹底的に“科学”していただくことは言うまでもありません。
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