第121話 禁句
2023年のコラム第1号をお届けします。本年もよろしくお願いいたします。
ちなみに今年の干支は卯(うさぎ)。その跳躍する姿から「飛躍」とか「成長」の年と言われています。
このコラムを読んでいただいているみなさんの一層の飛躍・成長を心からお祈りいたします。
今回は、つい使ってしまいがちなある言葉のせいで苦しんだお店の話です。
実は、地域密着のお店が自店をアピールする際“絶対”使ってはいけない言葉いわば【禁句】というものが存在します。
あるイタリアンレストランからご相談を受けた時の話です。
料理のクオリティは高く、センスのいい外観、落ち着いた雰囲気の店内。そして立地もまずまずというお店。
・本場で、長年修業してきた腕利きのシェフ
・重要な食材は本国から直送
・契約農家から仕入れる、安心で美味しい野菜 等々、
こだわりも結構あります。
客層は20代後半~30代中心。たしかな料理と落ち着ける雰囲気で、中高年層にも受けているお店です。
しかし、ご相談をいただいた時の経営状態は芳しくありませんでした。オーナー曰く「半年前に近くに出店してきたお店に客が流れている」との事。
さっそく競合(?)店をのぞいてみましたが、こちらは、20代前半とみられるお客さん中心で、ワインの飲み放題&お得なコース料理をメインにアピールしている、バル・居酒屋業態。
お客さんの一部はそちらに流れたかもしれませんが、利用動機も客層もかなり違います。そのお店の経営母体は、居酒屋中心に複数業態を展開している外食企業でした。
近くに新しいお店ができ、オープン景気で賑わい、自店の売上がじりじり下がってくると、心穏やかとはいかないもの。そして、結構多くのお店がやってしまう事があるんです。
このお店のオーナーもまさにそんな心境だったのでしょう。
オーナー「ウチも、もっと多くの方に来ていただけるよう、新しいコースをメインに提案する事にしました。」といって見せてもらったチラシを拝見して驚きました。
そのチラシには、こんな文字が躍っていたんです。
「普段使いにぴったりのお得な新コース登場!」
「お仕事帰りにでも気軽にお立ち寄りください」
近隣にポスティングをしたり、通りで手配りをしているとの事。お店のHPやメニューブックにも大きく紹介されていました。
土屋「反応はどうですか?」
オーナー「それがさっぱりです・・・」
「それでこんな形に変えようと思います。」と言って見せてもらった制作中の新チラシで私はまた驚きました。
新チラシでは、さらに安いコースを打ち出し
「より気軽にもっと普段使いの○○○(店名)へどうぞ」
オーナー「まだHPやメニューブックの更新は間に合ってないんですけど。」
土屋「このチラシすぐに止めてください。HPの更新もやめてください。」
前述の通り、このお店は、デートなど大切な方との会食にぴったりな“オトナ”の空間です。つまり“ハレ”の日ニーズに強味を発揮できるお店。
そして、こういう特別な日に、
「普段使いにどうぞ!気軽なお店です。」とアピールしているお店には、行かないですよね。
つまりこのお店にとって「普段使いのお店」とか「気軽なお店」は、まさに
【禁句】
こういうアピールをすると「それならもっと安い店に行くかor家で飲むか。」となってしまいます。
このお店の売上がジリ貧になっていた一番の要因は、既存客のフォロー不足でした。結果、常連さんがじわじわ他店に流れてしまっていて、近くにできたイタリア居酒屋の影響は限定的だったのです。
そこで、まずは既存客の維持と再来店アップに力を入れていただく事になりました。顧客リストは集めていなかったので、まずはそこからです。幸い名刺やネット予約などで一定数の連絡先はあったので、最優先でお知らせを開始することに。
そして、気軽なメニューではなく、ワンランク上の“特別”なコースの開発も同時に着手していただきました。
そのイタリアンのお店はコロナ禍の今も何とか生き残っています。近くに出店してきたイタリア居酒屋は撤退し、今は定食屋さんになっているそうです。
【土屋先生からの一言】
お客さんが減ってきた時「ウチはちょっと敷居が高いんじゃないか?」「もう少し安くすればきてくれるんじゃないだろうか?」そんな考えがつい浮かんでしまうものです。
しかし、基本を忘れないでください。安さや気軽さ(主に価格訴求)を武器に、お客さんを集めるのは、大手の得意技。地域密着のお店がその土俵で戦ってはいけません。
そして何より、あなたのお店を気に入って通ってくださっているお客さんが、“気軽に普段使い”や“仕事帰りにふらっと”を望んでいるでしょうか?
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