第120話 情報発信の原点

今回は、情報発信の基本というか、原点といえるお店のお話です。

ある地方都市の食堂からご相談を受けた際に、私自身も気づかされた事があったのでこのコラムでもお伝えしたいと思います。

そのお店は、若いころ飲食店に勤めていた経験があるご主人と、料理が大好きな奥様の二人で始められた、カウンターだけの12席の食堂。お子さんが社会人になり、ご主人も定年退職をされたのをきっかけに、始められたそうです。

焼き魚定食、とんかつ定食、生姜焼き定食、唐揚げ定食などの、定食メニューや、かつ丼、親子丼、カレーライス、うどんといった丼物や麺類などが食べられる、いわゆる“昔ながらの”定食屋さん。

食材や光熱費の値上げがずっと続いて、まだ値上げがありそうだし、コロナの先行きもまだまだ不透明だし、この際一度お店を点検してもらいたいという事で、ご相談があったお店です。

ご主人の地元の同業者さんが以前私の個別相談を受けたことがあり、それがきっかけでお声がかかりました。

お店に実際にお邪魔してみて、色々驚かされた事がありました。

駅に比較的近い、結構人通りのある場所なのですが、店前には、看板ものぼりもありません。もちろんメニューのサンプルなどもありません。構造的にも昔ながらのお店にありがちな、店内が全く見えない造りでした。

「お食事処○○(店名)」というのれんだけが、ここが食事ができる店であることを唯一示しています。

その後お話を伺ったのですが、ネットが苦手で、SNSはもちろん、お店のHPもなし。顧客リストを収集して情報発信する、なんていう事も全く意識されていませんでした。

メニューブックは文字だけのペラ1枚。後は店内のメニュー短冊を見てねと言ったところ。(この辺りも昔ながらの定食屋さんです)

しかしこのお店はコロナ禍にあっても、比較的堅調でした。確かに2020年は大変だったそうですが、お昼メインの食堂ということや12席の小規模店、しかもご夫婦だけでやっているという事もあり、何とかやってこられたとの事。さらに今年は今のところ2019年を上回る売上だそうです。

まるで、私が提唱している、飲食店の【繁盛の二大法則】など、関係ないといわんばかりの実績です。

もちろん、美味しいお店です。しかし、今時、同業他店にもありがちな定番メニューだけで、チェーン系の定食屋より価格はちょっと高目で、さらに立地も平均的なお店が、なぜこれほど堅調な業績を残せるのだろうか?

その謎はお店の営業中に実際に利用してみてわかりました。

何とこのお店、しっかり情報発信していたのです。

しかも、ほぼ毎日!

「来週からカキフライ定食やるよ!」

「今度とんかつ定食が2種類になるよ。来月の初めからね。値段とか決まったらまた知らせま~す。」

「寒くなってきたから、ぼちぼち豚汁定食始めるわ。」

「今年も冷やし中華やるよ~。ただ、準備大変なんで20食限定ね。」

といった具合に、ご主人はほぼ毎日、顔見知りの馴染み客に声をかけます。まぁ今時は注文を待つ間のマスク越しの一言二言ぐらいですが・・・

ただ、このお店の常連比率は高く週に4-5回来るという猛者も少なくないので、ご主人の“情報発信”もほぼ毎日可能になります。しかし、馴染み客に声をかけているだけのつもりでも、カウンターだけの小さなお店、他のお客さんにも当然聞こえてます。ご主人は、そんなつもりはないんですが(笑)

お店を初めて利用した方なども、自分に言われているわけじゃないから、素直に耳に入ってくる。そして、また明日or来週も来ようかな、となる事も少なくありません。

このお店ならではの『お客さんとの定期的な接触』はしっかり実践されていた、というわけです。

ちなみに点検の結果、食材等の値上げで、利益を相当食われているのと、こまめに情報発信しているとはいえ、近隣に増えた競合他店にじわじわお客さんが流れているのは事実なので、まずはメニュー分析~メニューのリニューアルに取り組んでいくことになりました。


【土屋先生からの一言

情報発信で最も大事なのは、

相手の気持ちを考え、相手にプラスになるor喜ばれる情報を伝える事

そうでなければ情報過多の現代、発信した情報は誰にも響かないし、届きません。みんなスルーされてしまいます。

【口頭で伝える】というこのお店の手法は原始的かもしれませんが、ご主人は馴染み客のAさんやBさんの喜ぶ顔が見たくて発信したはず。だからほかのお客さんにも響いたのです。

チラシやダイレクトメールやポスティング等のアナログツールから、HP・メルマガ・ブログ・さらには各種SNS等、今や情報発信のツールは山ほどありますが、あなたが今伝えたいその情報、○○さんや▲▲さんや□□さんにプラスになりそうですか?喜んでくれそうですか?


<お知らせ>

このコラム(第120話)が、今年の最終号となります。来週(12/30)はお休みとさせていただき、新年1/6(金)より第121話をお届けいたします。
今年も1年お世話になりました。来年も皆様のお役に立てるようなコラムをお届けできるよう努力してまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

2022年12月23日 土屋薫

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