第110話 コミュ力

今回は、独自のスタイルで、お客さんと良好な関係を築いているお店の話をしたいと思います。

名古屋市の郊外、徒歩圏内に電車の最寄り駅のない、住宅街にあるお店です。車社会の名古屋では比較的よくあるケースですが、お酒を飲ませるお店としては、立地的には不利と言えます。しかし、なかなかの人気店!お客さんはご近所さんがメインです。

居酒屋でありながら、このお店は40代後半以上の、子育て卒業世代の主婦が中心。男性のお客さんはほとんど見かけません。居酒屋=我々オヤジ達の社交場or隠れ家、といった方程式は、このお店にはあてはまらないんです。連日、“元”お嬢さまたちのにぎやかな笑い声・話し声が店内に響き渡っているお店です。

ご主人の料理人としての腕前はかなりのもの。繁華街やオフィス街に出店していたとしても、人気のお店になっていたことでしょう。

しかし、このお店はあえて住宅街に出店しました。居酒屋=オフィス街or繁華街、と考えがちですが、そういうエリアはライバル店も多く、競争が激しい。さらに家賃も高い。であれば競合も家賃もほどほどの住宅地に出店して勝負しよう、とご主人は考えたのです。

さらに、地域の女性層をメインターゲットに設定。例えば「枝豆」「たまご焼き」「冷奴」といったような、居酒屋の定番メニューに、ひと手間・ひと味加えた“創作料理”が中心のお店です。

女性(特に奥様層)をターゲットにしたのは、ご主人の長年の飲食店勤務の経験からきたものでした。男性は一度気に入ると、ずっと来てくれる確率が高いですが、他の人にお店を紹介してくれる方は非常に少ない。また、以前に比べ、一途に通ってくださる方も年々減少傾向にあります。

であれば、住宅街立地で“コミュ力”に優れた女性に気に入ってもらえるお店にした方がいい。というのがご主人の戦略です。

そしてこの判断がその後の新型コロナウィルスの感染拡大時にもプラスに働きました。

また、女性をターゲットにした場合のメリットはそれだけではありません。3度4度とお店に通って、ある程度面識ができると、彼女たちは、価格やメニューについて、忌憚のない意見や感想を聞かせてくれるようになります。

しかも、結構遠慮がない。もちろん、お店を愛しているからこそなんですが、辛口コメントの嵐だったりすることもあるのだそうです。

そして(ここがポイントですが)、ご主人はその意見にしっかり耳を傾ける。

もちろん、何でもかんでも言われたとおりにするわけではありませんが、改善のヒントにしたり、これはと思った意見や提案はメニューやサービスに反映させたりします。

そうすることで、お客さんとますますいい関係になり、再来店率も跳ね上がっていきます。

さらにさらに、

「この間、〇丁目にオープンした焼き鳥屋行ってきたけどねぇ・・・」とか、

「そういえば、○○(近隣の競合店)が周年記念フェアをやっていたけど・・」

といった具合に、他店の情報もどんどん入ってくるようになるんです。

『お店の魅力を広めてくれて』

『お客さんとして、料理やおもてなしに意見を言ってくれて』

『近隣飲食店(競合店)の情報も伝えてくれる』

彼女たちは、お店の広報担当で、アドバイザーで、市場調査もしてくれている、というわけです。これはありがたい存在だと思います。

男性ではおそらくこうはいかないと思います。女性の“コミュ力”の高さには舌を巻きます。

ただし1点だけ注意!それは、お店とお客さんの距離感について。

このお店のお客さんとの“イイ関係”は。常連の奥さまたちが、ご主人の料理の腕前や、料理に対する姿勢に感動し、敬意を払っているから成立しています。

でなければ、お店は彼女たちに占領されてしまい、他のお客さんがよりつかなくなってしまうでしょう。

お客さんと親しくなることは重要ですが、常に半歩先にいなければならない。

ここは大事なところです。

コロナ禍で、会社がらみの宴会や接待、あるいは仕事終わりの“飲みニケーション”が減少し、繁華街やオフィス街の居酒屋さんの多くが苦戦する中、このお店は着実に結果を残しています。


土屋先生からの一言

一般的に、情報の伝達・収集に優れているのは女性。男性の比ではありません!“コミュ力”の高い彼女たちはきっと、あなたのお店の“強力”なサポーターになってくれることでしょう。

ポイントは、相手の気持ちに寄り添う事。そして、相手の言葉に実直に・誠実に耳を傾けていただければと思います。


このコラムへのご意見、ご感想などをお待ちしております。

こちらまでお寄せください→ajimori@clock-work.net
または、味守りプロジェクトFBページまで