第112話 飲食業とは?

前回に引き続き“人”の話をしたいと思います。

『ファミレス、22年度末までに約1,000軒が閉店!?』
※帝国データバンク調べ

『居酒屋チェーン主要15社、コロナ前から2割以上店舗減少!』 
※東京商工リサーチ調べ

飲食店の店舗減少が止まりません。

ファミレスや総合居酒屋は、コロナ前からすでに、業態そのものがお客さんの求めているものとズレが生じてきたという側面もありますが、それだけではないかもしれないと私は考えています。

今回はその典型例の一つをご紹介したいと思います。それは某外食チェーンにパートとして勤めていた私の知人の体験に基づいた実話です。昔話かもしれませんが、コロナ禍で苦戦しているお店が多い中、今時もこういう事があるかもしれないと認識していただければと思います。

今から8年ほど前の事、そのチェーンは売上不振に陥っていました。そのチェーンの中部地方の某店舗にホールスタッフとして勤めていたのが、私の知人のAさんでした。

客数・売上がじわじわ落ちて来た時に、このお店(というかチェーン)がとった主な策は

【人件費の削減】

中でも「パートアルバイトの人件費」の削減に力を注いだのです。

誤解を恐れずいうのなら、人件費の削減という手法は、収支改善に即効性があります。特に、パートアルバイト比率の高い外食業界のようなところでは、短期的には効果を上げる事でしょう。

ただし、魅力的なメニューやサービスの開発、ファンづくりといった、売上アップのための抜本的な対策を講じない限り、中・長期的な経営改善にはなかなかつながりません。サービスの質の低下による失客も拡がっていきます。

しかしながら、その傾向は徐々にひどくなっていき、私も話を聞いた時耳を疑ったのですが、Aさんが働きだして半年ほど経過した頃の本部からの指示は「月末までにあと○○円の売り上げを達成するように」ではなく「月末までにあと○○円人件費をカットしろ」というものだったそうです。

ある時店長が「さすがにこの人員では、お店を回すのは難しいです。お客さんがちょっとでも増えたら迷惑をかけてしまいますよ。」と反論したそうですが、エリアマネージャーから帰ってきた答えは「客は待たせておけばいいから、とにかく経費をカットしろ。」の一点張りだったとの事。

もちろん、トップの話を聞いたわけではないので、一連の指示がすべて会社の意図通りとは限りません。トップの指示がエスカレートしたり、途中でひずんでいくことは往々にしてあるものです。また、Aさんの主観も入っている事でしょう。

しかし、お店の人員が常にギリギリだったのは事実。スタッフは終日いっぱいいっぱいの状態。経験の浅いスタッフは、お客さんが来るのが恐怖になっていたようです。

さらに、少しヒマになれば、「今日は30分早くあがってもらってもいいかな?」なんてお願いが常に店長からあったりしたのだとか。

こういう状態のお店で働いているスタッフに、お客様の“満足”を追求するとか、お客様を笑顔にしよう、なんて考えてもらうのはとてもじゃないですが無理な話です。

もちろん、このお店も集客アップを図るための施策も行ってはいました。しかし、年3回程度のメニュー切り替えと、思いついたように実施する、割引やプレゼント。といった旧態然とした取り組みでした。

これではなかなか来ていただけないですよね。しかも、スタッフはいつもギリギリですから、たまにお客さんが大勢来店されようものなら、ちょっとしたパニックになる。で、不満が出てわざわざきてくださったありがたいお客さんも再来店はない・・・

その結果、ますますお客さんが減る~売り上げが落ちる~さらにスタッフを減らす~さらにサービスが低下する~またまたお客さんが減る、という

“負”のスパイラル にはまっていたと言えます。

おそらく、スタッフのモチベーションは下がりっぱなしだったことでしょう。Aさんも、勤めて1年弱で収入の安定した他の仕事に変わってしまいました。

地域密着のお店の場合、ここまで極端ではないにしろ、お店の経営が思わしくない時に陥ってしまいがちな一つのパターンといえるかもしれません。反面教師として、意識しておいてほしいと思います。


土屋先生からの一言

そもそも飲食業とはなんでしょう?販売業でも、サービス業でもありません。

飲食業とは“おもてなし業”なのです

これは、イートインだけに限ったことではありません。テイクアウトでも、デリバリーでも、さらには通販でも“おもてなし業”であることをしっかり意識して、取り組んでいただければと思います。


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