第37話 愛と繁盛

今回は、ある地方都市の駅前商店街にある居酒屋さんを紹介したいと思います。

そのお店は、市内第一の駅前に立地する、韓国料理居酒屋です。しかし、人口20万人ほどの地方都市では、市内で一番乗降客数の多い、メジャーな駅の周辺といえども、あまり活気がありません。

写真はイメージです。

しかし、地域商店街の凋落(というとちょっと言い過ぎですが)とは裏腹に、このお店は長年にわたって繁盛を続けています。

その強みとはいったい何でしょう?席数は約30席。客単価は3,500円程度とオーソドックスな居酒屋です。

料理が美味しいから?ママが美人だから?確かにそういう要素もこのお店の強味と言えますが、今時それだけでは決め手になりにくいものです。

「私は、来てくださるお客さまのことが、みんな“好き”になっちゃうんですよ!」素敵な笑顔でママはそう話してくれました。

もちろん、恋愛感情って意味じゃありません。女性ファンもとっても多いお店です。

でも、これこそがこのお店の“一番の強味”

お客さんにどうやって、気に入ってもらおう…じゃないんです。そういうフリだけして、お客さんを引きとめる、なんていうのはよくある発想ですが、違います。

ママがまずお客さんを好きになっちゃうんです。(まぁ全員とは言いませんが)こちらがまず好きになり、お客さんに興味を持てば、相手もきっとお店を気に入ってくれるはずです。

これは強い!

「当店はこんなに魅力的です!」とアピールされるより、

「当店はこんなにあなたのことを思っています!」と言われたほうが嬉しくないですか?

「お客さんの心をいかにつかむか」とか「どうやって好印象を与えるか」と考えるのが普通なのに、自分が(お店側が)まずお客さんを好きになってしまう。というのは、なかなか考えてできるものではありません。

ママいわく、

「お店は色々あるのに、わざわざうちに来てくださったんですよ。凄く嬉しいことじゃないですか。だから、お客様のことが好きになっちゃうんです!これっておかしいでしょうか?」

いえ、おかしいどころか、これこそがこのお店の強み・魅力の源泉でした。

それを裏付ける逸話を一つご紹介します。

このお店は、日本であまり知られていない韓国の家庭料理も結構あるので、メニューを見ただけではどんな料理かわからないものも少なくありません。

当然スタッフへの質問も増えます。スタッフには、知識として覚えた料理の個性や魅力をお伝えするだけでなく、自分自身がその料理を味わった感想もあわせて伝えてほしい。というのが、ママの(このお店の)考え方。

そのため、新しいスタッフには、お店で出しているメニューを必ず一通り食べてもらうようにしています。

そんなある日、ちょっとした“事件”が起こりました。アルバイトで入ったばかりの、ホール係の女の子が、お客さんからある新メニューについて聞かれ、答えることができなかったんです。

バイト初日ですし、無理もない話かもしれません。しかし、このお店にとってはやってはいけない事でした。

そして、その時のママのとった行動が凄かった。

さっそくそのメニューをつくり、ママが自ら運んでこうお詫びしました。

「スタッフがお客様にお料理の説明がきちんとできなかったのは、私のミスです。大変申し訳ありませんでした。おつくりしましたので、お口に合うかどうか、お試しになってみてください。もちろん代金は要りません。」と。

そして、新人のアルバイトにも、そんな状態で注文を取りに行かせてしまったことを詫びたんです。

お客さんへの“愛”があると、ここまでできるものなんですね。

こういうことが徹底できるのもまた、地域に密着した個店・専門店の強味ではないでしょうか?


【土屋先生からの一言】

お客さんは大切な存在です。ではなぜ大切なのでしょうか?お店に売り上げや利益をもたらしてくれるから?

もちろん、そういう部分もあるでしょう。ですが、そのスタンスで一生懸命おもてなしをしても、さほどお店に惚れてくれないものです。

数あるお店の中から、あなたのお店を選んで来てくれた、お客さんとの出会いを心から喜んで欲しい。そして、お客さんを好きになって欲しい。

そうすればお客さんも、あなたや、あなたのお店が大好きになってくれると思います。

【愛と繁盛】は正比例するんです。


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