第117話 ゼロヒャク思考
先日、ある地域の飲食店の有志の方に向けた勉強会&フリーディスカッションに参加した時のお話をしたいと思います。
たまたま飲食店組合のリーダーと以前からご縁があったことから、この度の会の開催となりました。
そこは海に近い町で、新鮮な魚介類と美しい海岸が自慢の地域。以前はリゾート地・保養地としても人気があり、夏ともなれば、海水浴客でごったがえす地域でした。おかげで、町の飲食店も大賑わい。年間を通じても、集客にはあまり苦労しない地域だったそうです。
しかし、レジャーの多様化や、地域間競合の激化・グローバル化などによって、ここ7-8年は観光客がジリ貧状態との事。そこにコロナの襲来です。駅前の商店街も海岸沿いのショップもホテルも元気がなくなってしまいました。
リーダーからは
「観光客で成り立っていた町なので、以前の活気がすっかりなくなった今は大変厳しく、お客さんをいかに呼び戻すかを考えないと売上を伸ばすには難しいです。さらにコロナ禍ということもあり、どんな対策をとっていけばいいのかぜひご指導ください。」との事でした。
予定では、最初に私の講義を受講するという流れでしたが、ご参加の皆さんの“熱”を非常に感じたので、まずは、自己紹介を兼ねて皆さんにお話を伺う事にしました。
ご参加の方々は、自己紹介も早々に各々の現状やご意見などを熱心にお話されました。お話をまとめると『すっかり寂れてしまったこの町の新たな魅力を発掘・発見し、観光客を呼び戻したい!』といった事でした。
全員のお話を聞き終わった後、私からも一言言わせていただきました。
「お気持ちは大変よくわかるのですが、飲食店組合としてあるいは個々のお店として、まずやるべき事があるのではないでしょうか?」と。
こういう状況は今までにもあちこちでみてきました。
「郊外のチェーン店にお客さんが流れて、昔ながらの蕎麦屋はみんなダメ!」
「不況で、安売りの店しか流行ってない!」
「道交法改正で、お客さんが入っているのは食事中心の店ばかり!」
それぞれ問題点、悩みどころは違いますが、みんな共通点があります。
それは「〇か×か」「0か100か」といった、二者択一の考え方に陥ってしまっているという点。
こういうのを【ゼロヒャク思考】といい、人が自信を失ったり、困難にぶつかって悩んでいる時に陥りやすい思考パターンなのです。
そんな時私たちは、極端な評価に走りがちで、50点や70点のような中間的な評価が難しい心理状態になってしまっている、というわけです。
では本当に「みんなダメ!」なのでしょうか?
以前ほど簡単ではないけれど、打つべき手を打ち、様々な工夫をすることで、昔ながらの蕎麦屋でも、安売りしなくても、お酒を出す店でも、健闘しているお店はあるのです。
このコラムでも以前「すべてコロナのせいで片付けてしまっていませんか?」というお話を書かせていただきましたが、今回もまさに同じでした。
『町の新たな魅力を発掘・発見し、町を活気付かせ、観光客を呼び戻す』という、地域レベルでの目標は目標としながら、1軒1軒のお店でも、問題点をもっと細分化し、できるところから着手して欲しいとお伝えしました。
『観光客が減ってしまったからダメ』ではなく、
ウチの店は、観光客の売上比率がどのくらいなのか?
といった分析や、
客数の落ち込みを、客単価アップで補える余地はどの位あるか?
とか、
地元のお客さんの利用率アップで、どの位カバーできるのか?
といった検討等々、個々のお店で取り組むべき事は色々あるはずなのです。
そういった質問を投げかけてみたところ、やれている方は少ないようでした。
お話しするうちに
「ウチはどちらかというと、地元のお客さんがメインです。これからは地元重視で行きます」という方も2名ほどいらっしゃいました。
厳しい状況にあることは変わりませんが『観光客が減ったからみんなダメ』ではなかったのです。
限られた時間でしたが、ご参加の皆さんが【ゼロヒャク思考】から現実的で柔軟な思考に少しは切り替わっていただけたのではないかと思います。
もう1回、できればもう数回、皆さんと会話する機会が持てないものかと、強く思った1日でした。
【土屋先生からの一言】
「最近は〇〇だからダメ」「もう××な店しか流行らない」「△△ブームの影響でみんな□□になってしまった」あなたもこんな気持ちになった経験、あるのではないでしょうか?
この思考が非常に怖いのは、そう思ってしまったとたんに思考が停止する事。
思考が止まれば行動も止まります。今できる手を打って、マイナスを最小限に抑える、といった行動もとれなくなってしまうのです。
【ゼロヒャク思考】に陥らないよう、十分注意していただければと思います。
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