第44話 行列が絶えなかった人気店の今・・・
今回は、愛知県の郊外の、席数60席ほどの中華レストランで実際に起こった悲しい話をご紹介したいと思います。ちょっと昔話になりますが、おつきあいください。
5年ほど前の事。近くで仕事を終え、ランチを食べにあるお店に立ち寄った時、厨房に見知った顔がありました。向こうも覚えてくれていて、すぐにテーブルまで挨拶しに来てくれました。
私の以前からの知り合いで、今はこのお店の店長として働いているとの事でした。偶然の再会に驚きながら、お互い軽く近況報告をすると、お店は今苦戦中との事。ランチタイムはそこそこですが、夜は週末をのぞき、さっぱりという状況のようでした。
お店の料理や雰囲気はなかなかよく、店長も知り合いということで、私はその後、定期的に利用するようになりました。
それにしても、いつ行ってもすいているというのは、たとえ顧問先ではなくても、仕事柄気になったものでした。
それから、数ヵ月後“あの日”が訪れたのです。
偶然、店の前を車で通りかかった私は、驚きました。なんと、お店に行列が!
『そうか、お店のスタイルが今度変わるって言ってたな。』私は、数日前にお店から届いていた、リニューアルオープンのDMを思い出しました。
そのお店は、今までのごく普通のレストランから「バイキングレストラン」に変身しました。
このお店の運営会社は中堅の外食企業。フリーペーパーや折込チラシ、ポスティングなどにかなり力を入れ、一夜にして“行列のできる人気店”が誕生したというわけです。
私もさっそく利用してみましたが、大食漢の私にバイキングはストライク。
満足できました。しかし、ちょっと気がかりもありました。
私はしばらくしてから、店長に会いに行きました。この会社からは何も依頼されていなかったのですが、友人として、店長と話がしたかったんです。
土屋「魅力的なお店になりましたね。一気に人気が出たのもうなずけます。」
「ええ。お客様にも本当に喜ばれてます。」店長は手放しで喜んでいました。
しかし、このあと、私が店長に伝えた話は、決して耳障りのいいものではなかったと思います。
土屋「でも、定額でバイキングというスタイルは、今やそれほど珍しくないで
すよね。」
店長「はい、なので、お客様に飽きられないよう、新メニューや新サービスを、早目早目に投入していく予定です。また、広告もかなり積極的に打つんですよ。」
土屋「いや、そういうことじゃなくて、なぜバイキングスタイルにしたのかという点を、きちんと伝える事が必要だと思いますよ。」
店長「・・・」
私はバイキングスタイルという“売り”の背景にある“思い”(なぜ)を伝えましょう、と言いたかったのですが・・・
やはり通じなかったみたいです。
このお店、確かに“売り”が明確になり、その事で人気店にもなりました。
しかし、お店の“思い”というか“なぜ”バイキングなのかは伝えていません。というか、そもそもなかったのかもしれません。地域密着の個店・専門店のやり方と、外食企業のやり方は違いますからね。
しかし“売り”だけで勝負していくと、やがて同じスタイルのお店が出てきた時、厳しい競争になります。そうなれば体力勝負。有利なのは新しいお店や資本力のあるお店です。
ですから、“売り”が明確になったら、その背景にある“思い”もしっかり伝えていく必要があります。
そして、“思い”に共感してくれた人たちとの関係をより強くして、コミュニティを形成する。これが地域密着のお店の戦い方・勝ち方です。
“売り”には形があります。目に見えます。当たればすぐに真似される危険があります。
お店の“思い”がお客さんに浸透していくという事は、固定客ができて、お店の経営が安定するだけではありません。
他社に形を真似されても、競合を回避できる。あるいは被害を最小限に食い止められる。これが大きいと思います。
“思い”までは真似できませんからね。
そして、リニューアルから1年半、毎日行列ができていたこのお店は閉店し、今ではまったく別のお店になっています。
【土屋先生からの一言】
あなたが、事業として今のお店を経営されているなら“思い”を伝えるなんて手間のかかる事は不要かもしれません。
でも、あなたがもし、生業(なりわい)としてお店を経営されているならor永続的な繁盛を目指されているなら、お店の(あなたの)“思い”をお客さんに伝える努力をしていただければと思います。
※お店の“思い”については、コラム第9話をご参照ください
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