第62話 地域事情?
今回は、去年の初めにお邪魔した、苦戦中にもかかわらず、なかなか行動できないお店の話をしたいと思います。残念ながら成功事例ではありませんが、こういうケースは意外にあると思うので、注意喚起の意味であえてご紹介します。
そこは人口5万人弱の地方都市にあるイタリアンレストラン。オープン当初は、ランチは行列、ディナーも満席、と好調だったようですが、3ヶ月、半年と経過するうちに、じわじわとお客さんが減少。
そして、私がお邪魔した時には(オープンから約2年)、ランチタイムもまず満席にはならないという状況でした。
ご主人と奥様でやっている、小さなお店とはいえ、このままではまずいので、何とかしたい、という事でお悩みだったところ、取引先の内装屋さんがたまたま私のことをご存じで、ご紹介という形で相談いただいたお店です。
50代後半~60代前半のオーナーシェフは開口一番、
「どんなメニューにすれば売り上げ上がるでしょうか?自分なりの判断でメニューを入れ替えたり、新メニューを投入したりもしているんですが、反応はイマイチなんですよ。」
どうやらご主人は、業績低下の原因はメニューにあると思っているようです。もちろん、メニューの見直しも大事ですが、そのほかにも原因があるかもしれません。
私の経験から言うと、こういうタイプのオーナーさんの場合、なかなか言うことを聞いてくれない事が多かったりします。
とにかくまずはメニュー分析、いつものように出食数、売上高、粗利高の3要素について、数字が大きい順に並べていくのですが、これはというメニューが見当たりません。見事?に分散しています。
居酒屋のようなメニューが多岐にわたる業種ならともかく、専門レストランで、出数、売上、粗利のどの要素においても構成比10%を超えるメニューがありません。超えるどころか、10%近いメニューもない。これは厳しいです。
さらに、時間の経過とともに、デミグラスソースのハンバーグステーキやカツカレーなど、オープン時にはなかったメニューが新たに登場していて、イタリアンレストランとしてもブレて来ている様子。
そのことを指摘するとご主人は
「いやーこのあたりでは都会と違って色々やっていかないと足を運んでくれないんですよ。」とのこと。
メニューについては問題の根が深いので、一旦わきにおいて、お店の情報発信について質問させていただきました。
土屋(以下、土)「利用されたお客さんのリストは集めてますか?そして、定期的にお知らせを出したりしていますか?」
ご主人(以下、主)「いえ、そういうことはやっていません。ほとんどが顔見知りですし、今さら住所とかを聞くのはちょっと、このあたりではそういうことはまずやってないです。」
土「じゃあ、SNSでの情報発信とかはいかがですか?」
主「今はああいうの主流らしいですが、私はガラケーでしてよくわかりません。都会では効果あるかもしれませんが、この辺では、効果があったという話は聞きません。そもそもやってる人が少ないと思いますよ。」
私はこのとき、10年とは言いませんが、何年か前にタイムスリップしたような感覚でした。失礼ながら、今時これほどの認識の方はかなり少ないと思いました。
この方の場合、耳慣れないことや自分の価値観に合わないものを【地域事情】の一言で、片付けてしまっているといったところではないでしょうか。これではお店の改善はなかなか難しいですよね。
その後も中々話がかみ合う事がなく、時間だけが過ぎてしまいました・・・
そしてご相談いただいた後、ほどなくして新型コロナウィルスの感染拡大が起こり、結局このお店とは、立ち消えになってしまいました。
ここまで極端なお店は今時珍しいかもしれませんが、
「この辺りではそういうのはあまり受けないから・・・」
「ここは他とちょっと違うから・・・」
「そういうことに関しては、この地方は独特なんで・・・」
あちこちで結構よく聞く言葉です。
あなたも大なり小なり【地域事情】のせいにして、そこで止まってしまっていることはありませんか?
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【土屋先生からの一言】
【地域事情】はたしかにあります。無視できないほど強い影響力を持つものもあることでしょう。
しかし【地域事情】の一言で片付けてしまう前に、他店の成功要因や世の中のトレンドの“本質”をよく見て欲しいと思います。そうすれば「今やるべき事」がきっと見えてくるはず。
どんな地域であっても、飲食店は人が相手のビジネスです。
『人の心を動かすもの』や『人が魅力に感じること』の“根本”は【地域事情】を超えたところにある!と私は思います。
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